第17回知的財産翻訳検定<第8回英文和訳>試験 標準解答と講評

標準解答および講評の掲載にあたって

 当然のことながら翻訳の試験では「正解」が幾通りもあり得ます。
 また、採点者の好みによって評価が変わるようなことは厳に避けるべきです。このような観点から、採点は、主に、「これは誰が見てもまずい」という点についてその深刻度に応じて重み付けをした減点を行う方式で行っています。また、各ジャンルについてそれぞれ2名の採点者(氏名公表を差し控えます)が採点にあたり、両者の評価が著しく異なる場合は必要により第3者が加わって意見をすりあわせることにより、できるだけ公正な評価を行うことを心がけました。
 ここに掲載する「標準解答」は作問にあたった試験委員が中心になって作成したものです。模範解答という意味ではなく、あくまでも参考用に提示するものです。また、「講評」は、実際に採点評価にあたられた採点委員の方々のご指摘をもとに作成したものです。 今回の検定試験は、このように多くの先生方のご理解とご支援のもとに実施されました。この場をお借りして御礼申し上げます。
 ご意見などございましたら次回検定試験実施の際の参考とさせていただきますので、「標準解答に対する意見」という表題で検定事務局宛にemail<kentei(at)nipta.org>でお寄せください。※「(at)は通常のメールアドレスの「@」を意味しています。迷惑メール防止対策のため、このような表示をしておりますので、予めご了承ください。」


1級/知財法務実務


第17回 知的財産翻訳検定 1級/知財法務実務 講評

問1

アメリカ特許出願において、審査、特許許可通知に対して料金納付等の所定の手続きを行った後、特許が登録、発行された場合の効果について述べた文章を出題しました。アメリカの場合、特許の発行によって特許権が発生し、許諾を得ない他者の特許発明実施に対しては権利行使を行うことができます。このenforcementといったいわば知的財産の定番用語については辞書を当たらずとも再現できる程度に習熟しておくことが望まれます。 アメリカ特許の場合、発行から2年間はクレームの範囲を拡張、変更するような補正も一定条件で認められるという点で特異です。このような法定期間について翻訳時に転記ミス等により誤った情報を記載することとなったような場合には翻訳文として致命的な欠陥となりますので注意が必要です。
発行された特許証を受け取った時には、記載内容に誤りがないか実際的な範囲で(例えばフロントページの書誌事項、クレームについて)誤りがないか確認することが望ましいと言えます。誤りを発見した場合には、特許商標庁に請求して訂正証(Certificate of correction)を発行してもらうことができます。

問2

問題文に記載したように、アメリカの連邦巡回区控訴裁判所(Court of Appeals for Federal Circuits, CAFC)で判示された判決文から抜粋して出題しました。外国特許関連の業務では、外国特許出願の審査における手続き(拒絶理由対応)、あるいは訴訟対応の過程において、関連するトピックを扱った判例を検索し、得られたものの内容を理解することが求められる場合があります。その際、英文判決文の内容を要領よく過不足なく要約することは重要です。
そのような観点から、要約を作成する場合には、一般に、
1.取り扱われている主題、論点を明示する。
2.内容の結論を摘出する。
3.結論に至る議論、理由付けについて適宜抽出して提示する。
という3つの事項を適切に記載することが必要です。今回の出題に当てはめますと、「アメリカ連邦高裁による特許クレームの明確性に関する判示であること」、「明確性に関する判断」、「明確性の判断基準」について字数制限の範囲内で適切にまとめられていることが合格レベルの条件となります。標準解答は、このような観点からいちおうの及第と考えられる解答例を示しています。
なお、クレームは特許権による保護範囲を表示する機能を有していますから、第三者に不測の不利益を与えないために記載内容が不明確である場合には一般に拒絶理由となります。クレームの不明確性は、当初の明細書等の記載を逸脱しない範囲で、すなわち新規事項を導入することとならないような補正により解消することができます。

問題(知財法務実務)PDF形式55.5KB   標準解答(知財法務実務)PDF形式77.9KB





1級/電気・電子工学


第17回NIPTA翻訳検定 1級/電気・電子工学 講評


問1について

問1は、携帯電話などで使われている符号分割多重接続方式に関するクレームです。
通信分野に明るくない受験生にとっては一見難しいように見えたかもしれません
しかし、各構成要素の関係は明確に記載されており、クレームが言わんとしている内容は、技術を知らなくても十分に把握できます。
実際の翻訳業務では、必ずしも自分の得意分野ばかり依頼があるわけではありません。
得意分野ではない場合でも、諦めず、きちんと下調べをしたうえで正確な内容把握をすることが求められます。
そうした力も、この問1では問うたつもりです。
「"m" orthogonal channel」を、そのまま「「m」直交チャネル」と訳してしまった答案がありましたが、これでは、「m」が何の意味なのか、よく分りません。
「m個の」と訳すべきであることは、別の箇所で「different orthogonal channel」と言う表現があることに注意すれば、容易に気づくことができるはずであり、その程度の最低限の技術知識をつける必要があります。
その他、クレームの読み方の基本が十分に理解できていないと思われる答案も散見されました。

問2について

問2は、ワイヤレス電力供給システムの発明に関する明細書の、従来技術の説明です。既に実用化されており、その点では内容把握はあまり難しいものではありません。
しかし、多くの受験生が間違えた部分が2つあり、そのため、合格点に達した答案はありませんでした。
1つは、5行目の「radio and cellular communications systems and hole computer networks」の部分です。この文章を、「ラジオ、セルラー通信システム、及び家庭用コンピュータネットワーク」のように訳した答案が散見されました が、これは不適切です。問題文が「radio, cellular communications systems and hole computer networks」という文章ならばそれで正解なのです。
が、問題文の場合、radio and cellular communications systemsを一単語として考え、「無線セルラー通信システム」と訳さないと、問題文が文法上間違いであることになってしまいます。
また、最終パラグラフの「alignment offset」は、前後関係からして、transferring ...over greater distancesとalignment offsetsが並列関係にあると解釈されるべきでしょう。また、alignment offset をそのまま「アライメントオフセット」と訳している答案が散見されましたが、本問では、カタカナのままでは意味が不明であると思われます。
offsetは、ランダムハウス大事典によりますと、名詞の場合、『相殺するもの、差引勘定の等しいもの、・・・の埋め合わせ、代償』が一番最初に出てきます。この意味からも、本問では、『補正』等と訳すのが正解です。回答の中には、『ずれ』のような意味で訳されているものが、散見されました。これでは、発明の意図しているものが、全く見えてきません。知財関係(他の分野でもそうだと思いますが)の翻訳では、この発明が、何を問題点とし、そのためにどのような解決策を考え、その結果、どのような効果が得られたかを、整合性をもって考え、それを前提として、日本語にしていかなければならないと思います。これは、翻訳ではなく、直に日本語で明細書を書く場合でも同じです。

問3について

本問は、他の問題に比べると解釈が容易な問題であり、多くの受験生が合格点の解答をしていました。contentに関しては、内容物、対象物、 中身など、様々な訳出がありましたが、いずれも正解としています。また、dispenseも、抽出する、供給する、小出しに供給する、など様々な 解答がありましたが、いずれも正解としています。
最後から4行目の「would have caused」は、仮定法過去完了ですので、そのニュアンスが出るように訳出することが正しく、単に「させる時間」とした答案は減点対象としました。
mayを見落としたり、andを「又は」と訳してしまったり、参照番号を落したり、など、細かいミスが散見されました。この程度の問題は、1 級受験者であればノーミスで訳出することが求められます。

問題(電気・電子工学)PDF形式359KB  標準解答(電気・電子工学)PDF形式141KB



1級/機械工学


第17回 知的財産翻訳検定 1級/機械工学 講評

特許翻訳では、英日翻訳においても原文に不備があることが通例です。日本の弁理士は、現地から来た英文クレームを修正して現地に確認させます。個人的な経験では、大手の法律事務所からの仕事でも英文クレームの実質的な修正が不要な案件は30%以下です。このため、予め翻訳者から問題点の指摘があると、その負担が軽減されて非常に助かります。特許翻訳者による問題点の指摘は、法的な面ではなく、技術的な矛盾といった技術面に対するものが助かります。

問1について

問1は、クレームの明確性を採点のポイントとしました。ただし、問1は、図面を見て実施例を正確に理解しないと的確な翻訳ができないものとしました。実施例に基づくクレームの原文修正が必須となっているからです。
今回、クレーム中において、請求項1では、「rotatable shut-off valve」と記載されたものが請求項2では、「the rotatable valve」という違う名称で定冠詞付きで記載されていました。一方、いずれもが実施例では、「rotatable ball-type valve」となっており、簡単な検索では、確認できない形としました。ただし、「valve」で検索すると、「drain off valve component」や「elbow-type valve」といった様々なvalveに混じって「ball valve 7」を見つけることができます。一方、「rotatable」で検索すると、発明の重要な構成を記述する以下の文を見つけることができます。
「Within this bore is located a rotatable ball-type valve comprising a substantially spherical ball 7 held between a pair of resilient 0-ring seals 8.」(下線追加)
これにより、「resilient seal」と「rotatable shut-off valve」の構造的関係を図面で確認して正確に翻訳することができます。なお、「resilient seal」も実施例では、「resilient 0-ring seal」としてあり、簡単な検索では確認できないようにしてあります。実務上もクレームと実施例の構成の名称が相違する場合が多いです。2割程の方が構造を正確に理解し、間違いを適切に指摘し、修正した上で訳していました。
一方、構造系のクレームを図面で確認しつつ慎重に翻訳するタイプの方にとっては、簡単な問題だったかもしれません。



1.和訳(下線は、参考用)

【請求項1】

配管システム、たとえばセントラルヒーティングシステムからの液体を排出するためのドレン開閉弁であって、
使用時に配管システムのパイプに接続されるように構成されている流入端と、排水ホースへの接続に適している流出部との間に延びている内孔を有するバルブ本体と、
前記内孔において前記流入端と前記出口部の間に配置され、前記ドレン開閉弁の開閉を可能とする回転可能な開閉弁と、
前記内孔内の複数の弾性シールと、
環状の保持部材と、
を備え、
前記回転可能な開閉弁は、前記複数の弾性シールの間に保持され、前記環状の保持部材は、前記回転可能な開閉弁を所定の位置に保持するドレン開閉弁。
【請求項2】

請求項1記載のドレン開閉弁であって、
前記環状の保持部材は、前記回転可能な開閉弁及び前記複数の弾性シールを格納する前記内孔よりも狭い内孔を有するドレン開閉弁。



2.問題点の指摘と対応措置

(1)the rotatable valve
@先行詞がありません。rotatable shut-off valveの誤記と思われます。
Aパリルートなので、修正して訳すとともにコメントしました。
(2)for example a central heating system(加点対象)
不明確な記載と思われますので、ご報告致します。



3.弁理士の対応例(参考)

(1)the rotatable valve(rotatable shut-off valve)
誤記か否かを検討し、必要に応じて修正(リバイズ)した英文を現地に送って確認します。
(2)for example a central heating system
状況に応じて、現地確認の上で削除、サブクレーム化、あるいはリバイズ無しの対応をとります。
@「削除」は、central heating systemがサブクレーム化しても特許性に寄与しない場合の対応です。
A「サブクレーム化」は、たとえば「前記配管システムは、セントラルヒーティングシステムである」との構成でサブクレームを作成します。
B「リバイズ無し」は、一発特許査定を回避するために行います。米国特許商標庁や欧州特許庁では、特許査定後にも補正の機会が与えられます。したがいまして、審査中の数年間の間に権利取得の方針が変わった場合、たとえばサブクレームの追加や権利範囲の変更が必要となったとき、欧州や米国では、特許査定後に審査官の合意の上で補正が可能です。
しかしながら、日本では、特許査定後に補正の機会が与えられません。したがいまして、外国のクライアントの指示によっては、一発特許査定を回避するために敢えて「たとえば」や「好ましくは」といった記載不備を残さざるを得ない場合があります。

問2について

今回の問2は、かなり難しかったのではないかと思います。実際に何が行われているのかが図面等で示されない状況で内容を把握して翻訳しなければならないのは、従来技術においてよくあることです。そこで、一番陥ってしまってはいけないのが、「よくわからないのでとりあえず原文をなぞる」という罠です。しかし、今回もこれが多く見受けられました。
原文が英語でも日本語でも、このように長い文をとりあえずなぞった翻訳はほぼ例外なく間違った訳になります。必要なのは、構成要素とステップとを切り出して整理し、最後にターゲット言語で表現することです。そこで、今回の解答例として、思い切って箇条書き形式を取ってみました。このような形式は、クライエントによっては好まないかもしれないので実際に使うことは推奨しませんが、これは少なくとも
「必ず行わなければならない作業」
であることを覚えておき必要があります。通常の文体にする場合は、こうした上で文章にしていけば良いわけです。この段落0002での減点が、今回の試験の減点の大半になりました。

問3について

問3は、非常にシンプルな機械の構成で、回答からは翻訳に苦労した形跡はあまり見受けられませんでした。但し、この問題にも落とし穴がありました。それは、first gear, second gearというのは「第1のギア、第2のギア」ではなく、「1速、2速」であるということです。回答例を見て「しまった!」と思われた方も多かったのではないでしょうか?基本的な点ですが、他の問題に悩まされ、残り時間が少なくなっていく中で、一見単純な問題を大急ぎで翻訳する中で多くの方が踏んでしまった地雷なのではないでしょうか。
今回の試験は、実力的には合格ラインに届くかもしれない(?)のに、大型の減点を複数受けて合格ラインを割るケースが多く見受けられました。100%完璧な翻訳はないとしても、「あり得ない翻訳」は誰の役にも立ちません。仮に権利かが実現しても、結局その後は特許の正当性を巡る係争に晒され、最終的にはクライエントの利益を損なうことにつながってしまいます。普段の翻訳業務も、限られた時間と情報の中で進めなければなりませんが、このような点を頭の片隅においていただければと思います。

問題(機械工学)PDF形式67.6KB   標準解答(機械工学)PDF形式111KB



1級/化 学

第17回 知的財産翻訳検定 1級/化 学  講評

問1について

有機化学の方法特許に関する出題です。翻訳する上で特に難しい表現などはありませんでした。しかし、特許請求の範囲は、文言の一語一語が審査対象及び権利範囲を定める基礎となりますので、不明確であったり、原語の表す範囲と異なる範囲を含むことになる訳語は使わないようにしてください。提出前にスペルチェックだけでなく、誤記誤訳のチェックをするようにしましょう。特に請求項3にミスが目立ちました。Diesel(沸点範囲)を訳す際には、選択肢としてガソリン、ナフサ、ケロシン(沸点範囲)と同じグループであることに注意してください。

問2について

重合触媒に関する背景技術です。特許は最新の専門技術に関するものですので、一般教養的な化学知識だけでは文章の内容を理解することは難しく、知識不足が誤訳の原因となります。本文は、触媒機能に直結する構造を説明する内容も含みますので、誤訳が目立ちました。よく知らない単語や不安に感じた単語はいつも複数の辞書や資料を当たって、意味や用法を確認してください。一般的用語と思えるbackboneでも、その技術分野では特に適切な訳語がある場合があります。その分野で一般的に使用されている用語(「アルキレンオキシド」「エチレンオキシド」等)の使用は別として、適切な訳語がある場合にも音読みカタカナ(「バックボーン」等)で表記する訳文は、一級レベルにふさわしくありません。

問3について

光起電装置の説明です。内容的にはそれほど難しいものではなく、専門用語の訳も含めて、全体的に良くできていました。アリール(Aryl)基とアリル (allyl) 基の違いを意識していない解答が目立ちましたが、化学分野では有名な基礎的知識ですので構造を理解して間違えないようにしてください。原文が長文の場合には、複数の単文を接続詞でつないで、同じ意味で分かり易くすることも可能です。

問4について

射出成形の実施例に関する出題です。全体的に良くできていましたが、専門用語が含まれており、実際の作業をイメージできないと誤訳につながるようです。よく知らない技術でも、ネットで調査すれば案外簡単に理解できることがあります。TMは、商標として使用されている製品名に対して慣習的に使用されているマークです。解答例では、審査基準に指示されるとおり、商標名の後ろにカッコつきで(商標)を付けました。

その他

知財英文翻訳には、「最新の技術」に関する「英文」を理解して、「適切な日本語」であることはもちろん、「審査対象となり、権利化後も法律的主張の根拠となり得る」文章を作成する力が必要です。このような高度な知識と能力なしに、顧客の満足する翻訳を提供することは困難です。
機械翻訳は、一般的な英単語からなる単文の翻訳はできますが、複雑な文章や専門的単語の翻訳は困難です。実力のある人が省力化や訳抜け防止のため補助として利用する機械翻訳は有用ですが、これから実力を付けるべき人が頼るものではありません。心してください。また、化学分野は、化学物質名の誤りは、即、権利範囲に影響を与えるため、誤訳やミスタイプなどないように、特に注意してください。
解答例では記載しませんでしたが、華氏やインチ等は、直訳の後ろにカッコつきで(換算SI単位)を記載することもできます。ただし、通常は「約」を付け有効桁数を考える必要があります。(参照「出願書類等への計量単位の記載についてのお願い」特許庁、平成11年10月)

問題(化学)PDF形式48.2KB   標準解答(化学)PDF形式152KB


1級/バイオ

第17回 知的財産翻訳検定 1級/バイオテクノロジー  講評

総評
今回は、ほとんどの人が、表面的に、つまり、言葉を単に辞書に載っている言葉で置き換えて訳していました。そのため、肌質が反応性であったり、抗体が同種抗原と結合できたり、抗p75との反応性だったり、意味不明の日本語がかなり目立ちました。訳文を日本語として読んだ時、理解できる必要があるのですが、そのことをもっと自覚して訳しましょう。
質の高い翻訳をするためには、基礎的な知識を身につけておくことが、結局早道です。わかりやすく書かれた大学の教養レベルの教科書や実験書等が出版されていますので、こうした本を読んで、実験のイメージを作り、よく使われる単語を押さえておくことで、翻訳のスピードも上がり、誤訳もかなり少なくなると思います。

問1について
技術的には難しくなかったと思いますが、その分、日本語の表現と内容に注意をしてもらいたかったと思います。例えば、2行目のtreatmentは、特に病気の話題ではありませんので、「治療」ではありません。混合肌なのですから、異なる肌質が混合しているのです。2行目のeach areaは、その各肌質の部分を指しており、そのために異なるtreatmentが必要だ、ということが書かれています。そこまで内容を読み取って訳してもらいたいと思います。Oil skinのところで、oil-producingを「油を産生する」と訳していた人が多かったのですが、皮膚は「油を産生する」でしょうか。日本語として、その様な表現はしないと思いますので、日本語として意味の通る表現を心がけてください。

問2について
細胞培養の基本を知っていれば、特別難しい問題ではなかったと思います。カラムによる精製や細胞培養に関する基礎的な知識が不足しているためか、首をかしげるような訳が目につきました。substrateは確かに、酵素の基質という意味もありますが、個体を結合する基板という意味もあり、カラム精製の場合、基板と訳さないと何を使って何をしようとしているのかがわからなくなります。イラスト入りのわかりやすい実験書等を参考にして、実験のイメージを作り、よく使われる単語を押さえておくことが必要かと思います。

問3について
内容を理解していないのか、理解した上で表現が悪いのかの区別が難しいですが、one neonatal rat litterがほとんど訳せていませんでした。litterは、一匹の雌から一回に生まれる仔全体を指す言葉であって、1匹の意味ではありません。 routinelyは、文意から、「定期的に」ではなく、「よく使われる方法で」という意味です。ウエブの辞書には「ルーチン的に」という意味が載っており、そのまま書いた人がいますが、これでは意味不明です。

問4について
短いクレームで、それほど難しくはなかったと思いますが、circularly permutedの誤訳が目立ちました。また、ドメインと領域を混同している答案が幾つか見られました。これは別の概念であり、こういうところで誤訳をすると訳者の実力が疑われてしまいます。マルチプレックスシステムは、複数の検出対象物を検出できる1つのシステムですが、これを複数のシステムと訳している答案がありました。あるクレームに、複数の発明を記載すると、記載要件違反になるため、このようなことはまずありません。注意して下さい。 また、時間切れにならないように、時間配分にも注意してください。

問題(バイオテクノロジー)PDF形式58.8KB   

標準解答(バイオテクノロジー)PDF形式92.9KB



2級

第17回NIPTA翻訳検定 2級 講評

全体講評

2級試験では、各技術分野の特許明細書に共通する基本的な特許翻訳知識や技量が備わっているかどうか、が問われます。題材が特許明細書ですから、当然内容は技術的なものになりますが、1級試験に比べて技術理解力・表現力の要求レベルを下げ、だれにでも理解しやすい内容のものが出題されています。一方、オリジナルの英語特許明細書は、必ずしも推敲を重ねて作成されたものではなく、「係り受け」(修飾関係)などが不明瞭なものがかなりあるのが実際の実務の世界です。そのような不明瞭な英文を正しく読むために助けとなるのが技術的なセンスです。今回の試験(第17回)では、そのような技術的センスがあれば避けられたであろうと思われる誤訳がかなり目立ちました。詳しくは各問について以下に記載するとおりです。

問1について

請求項の基本的な翻訳力を見るものです
1.構成要件の表現の基本である、「名詞句=名詞+詳細説明の独立分詞構文」という表現をどう訳すかを見ます。
a head for cleaning teeth, the head having a plurality of bristles protruding from a first surface of the head;
においては、
「a head for cleaning teeth」は、構成要件1であり、その次の「the head having---」は、この構成要件1の詳細を説明する独立分詞構文であることを理解しなくてはなりません。

2.構成要件を列挙するには、「Aと、Bと、Cと、」のように、列挙の「と、と、と」を使用するのが通常です。
3.flexibleは、歯ブラシの柄は撓める(たわめる)ことはできますが「柔らかい、柔軟」という表現は合わないでしょう。鋼鉄のバネの例のように、撓めることができるという意味の「可撓性のある」という技術用語を使うのがよいでしょう。
4.greater thanを「以上」と訳す例が見られましたが、「以上、以下、超、未満」を正しく理解し訳す必要があります。
5.従属請求項の、further comprisingの訳は、「さらに〜を備える」とするのがよいでしょう。
6.請求項3では、when the external pressure exerted against the head is less than the minimum predetermined pressureの「is」を単に「未満である」とするのではなく、「未満になる」のように理解できて欲しいものでした。
7.when the external pressure exerted against the head is less than the minimum predetermined pressureの「is」は、「未満である」ではなくて、「〜未満となる」と訳出すると日本語として理解しやすくなります。be動詞の訳は「ある、する、なる」がありますが、「する、なる」は大変難しいものです。

問2について

電池に関する文章であり、基本的技術知識、翻訳力を見ます。
1.Japanese Unexamined Patent Application No. 2011-XXXXXは、特許公開公報第2011−XXXXX号とするのが通常です。
2.notebook type personal computerをどのように扱うかも見ました。日常語であり省略形の用語を、明細書中で使用していないかに注目しました。ノートパソコン(→ノートブック型パーソナルコンピュータ)という表現が非常に多かったのは残念です。同じような表現として、メーター(→メートル)があります。
3.mayを訳出しない例が多く見られます。mayを多用すると日本語として違和感はありますが、権利範囲(こうしてもよい、こうしてもよい、こうすることもできる)に関係する表現ですので、基本的に訳出すべきでしょう。
4.an electrode assembly having a positive electrode, a negative electrode, and a separator that are wound to form a jelly roll structureの誤訳が多く見られました、3つの材料を巻いてjelly roll structureにするという電池の基本構造の知識が必要でした。

問3について

化学、物理分野の例であり、基本的技術知識、翻訳力を見ます。
1.用語が難しかったので、指定用語として与えました。与えられた指定用語は、使わなくてはなりません。使わないのはマナー違反です。
2.carbon nanofibersという無冠詞複数形の意味をくみ取ってもらいたい例です。「カーボンナノファイバー」だけではなくて、「カーボンナノファイバー類、というもの」という意味を理解するべきです。
3.Nanofibers are defined as---というところでは、明細書は、発明者の意志を表現する文書ですので、「〜と定義される」ではなくて、「〜と定義する」というふうに能動態を使用して意志を表現して欲しいものです。
4.These techniques include, but are not limited to, melting, kneading and dispersive mixers to form an admixtureでは、<melting, kneading and dispersive mixers>が3つの例を示している群であることを見抜くことが必要です。「この技術としては、限定はしないが、<融解、混練、分散用のミキサー>が挙げられ、これによって混合物を形成し--」のように不定詞を結果で訳出するとよいでしょう。

問題(2級)PDF形式63.2KB  標準解答(2級)PDF形式85.5KB





3級

第17回NIPTA翻訳検定 3級 講評

 解答例と解説をご欄下さい。

問題(3級)PDF形式173KB  解答と解説(3級)PDF形式187KB

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<問い合わせ先>
特定非営利活動法人(NPO)日本知的財産翻訳協会 事務局
〒160-0023 東京都新宿区西新宿6-10-1 日土地西新宿ビル7F
TEL 03-5909-1188 FAX 03-5909-1189
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