第22回知的財産翻訳検定<第12回和文英訳>試験 標準解答と講評



標準解答および講評の掲載にあたって

 当然のことながら翻訳の試験では「正解」が幾通りもあり得ます。
 また、採点者の好みによって評価が変わるようなことは厳に避けるべきです。このような観点から、採点は、主に、「これは誰が見てもまずい」という点についてその深刻度に応じて重み付けをした減点を行う方式で行っています。また、各ジャンルについてそれぞれ2名の採点者(氏名公表を差し控えます)が採点にあたり、両者の評価が著しく異なる場合は必要により第3者が加わって意見をすりあわせることにより、できるだけ公正な評価を行うことを心がけました。
 ここに掲載する「標準解答」は作問にあたった試験委員が中心になって作成したものです。模範解答という意味ではなく、あくまでも参考用に提示するものです。また、「講評」は、実際に採点評価にあたられた採点委員の方々のご指摘をもとに作成したものです。 今回の検定試験は、このように多くの先生方のご理解とご支援のもとに実施されました。この場をお借りして御礼申し上げます。
 ご意見などございましたら次回検定試験実施の際の参考とさせていただきますので、「標準解答に対する意見」という表題で検定事務局宛にemail<kentei(at)nipta.org>でお寄せください。※「(at)は通常のメールアドレスの「@」を意味しています。迷惑メール防止対策のため、このような表示をしておりますので、予めご了承ください。」


1級/知財法務実務


第22回 知的財産翻訳検定 1級/知財法務実務 講評

問1
 東京地方裁判所の近時の判決から採用しました。本事案は、日本特許出願の共同出願人(二名)が、その一方が他方からの依頼を受けて出願後の所要の手続を取るように契約を結んでいたところ、依頼を受けていた一方出願人が出願審査請求の手続を適時に行わなかったため、特許を受ける機会を喪失したとして、他方出願人が当該一方出願人に対して損害賠償請求を求める訴えを起こしたものです。
 本問出題のねらいは、特許出願手続に関する用語、表現を的確に英訳することができるか、また、民事訴訟に関する基本的な用語を適訳することができるかを見せていただくことにありました。
 特許事務所や、企業知財部門などの現場で、判決文を翻訳する機会は実際にはそれほど多くないかも知れません。しかし、日本での重要判決の速報といった、外国への知財情報発信の必要性、重要性は今後も増していくと考えられますし、知財関係の判決には、本問のように特許出願手続等に関する用語・表現が含まれますので、拒絶理由通知書などの翻訳をする場合にも役に立つと思います。
 さて、今回本問に関して提出された解答は、概して原文に忠実に、よく翻訳されていたと思います。ただ、前半の下線部よりは、後半の被告の責任を論じている下線部の方で苦心されていると感じました。例えば、裁判における自由心証主義に関する「弁論の全趣旨」の用語については、書面を表す"brief"を当てるなどされている例もありましたが、口頭弁論における主張、証拠、その他あらゆる事情を勘案するという趣旨からは、"gist of the whole argument"等とした方がよいと思われます。
 本試験の性質上、翻訳に際してオンライン検索を多用することになると思いますが、インターネット上には種々雑多な情報があふれていますので、日頃から信頼できるオンライン辞書等の情報源を用意しておくことは作業の効率化につながります。
 より細かい点としては、例えば、「弁理士」は弁護士と区別するために通常用いられる"patent attorney"等と記載し、日本の弁理士であることを特に明確にする必要がある場合には、"Benrishi"と日本語ローマ字表記を併記する場合もあります。また、「特許事務所」は、例えば"patent law firm"等とするのが一般的と思います。"patent office"とすると特許所管官庁(我が国で言えば特許庁)の意味にとられることもあるので注意しましょう。
 知財法務実務の分野は、特許翻訳と異なりつかみどころがなくなにを学習すべきか迷われる向きもあると思います。ショートカットはないのですが、和英翻訳で言えば、原文の表面的な言い回しにとらわれることなくその意味するところを抽出すること、そして辞書等の対訳を鵜呑みにせず、必要に応じて英英辞典や類語辞典も活用しながら適訳を探りつつ地道に翻訳を重ねることが王道ではないでしょうか。そのようなリファイン作業に時間を振り向けられるよう、知財関係の基本語彙については辞書を引かずに済むように繰り返し記憶に定着させるとよいと思います。このことはもちろん実務上も大いに役に立つでしょう。
 今回は残念ながら合格なしとの結果になりましたが、みなさまのさらなる健闘を祈ってやみません。

問2
 「知財法務」の分野においては、特許明細書翻訳以外のすべての知的財産分野における翻訳需要をターゲットとし、その性質上、対特許庁というよりむしろ対第三者(私人)という場面を必然的に想定しています。このような私人間の関係を律する規律として、「契約」は、避けて通ることはできないため、前回に引き続き契約を題材としました。
 全体的な採点方針としては、契約書の内容が正確にかつ分かりやすく反映されているか?という点に重点を置き、その前提として、英語が文法的に適切であるか?多義的に捉えられる点はないか?という点に着目して審査をしました。というのも、契約書の英訳は、実務上、どんな用途に用いられたとしても、少なくとも契約書原文に記載されていることが正確に分かりやすく反映されていることが不可欠に求められるため、採点の視点も実務上の観点に立つことが受験者の利益に資するのではないかと考えているためです。したがって、専門用語の対英語訳を知っているか?という点や英文契約表現として美しいか?という点などは、内容の正確性・理解容易性が担保できている限り、減点要素にはなっておらず、むしろ加点要素と位置付けています。
 各小問について、まず第2条第5項は、知財系契約では肝となる誰が何の権利を持つのか?誰が誰に何を約束したのか?を読み解き、正確にかつ分かりやすく表現できているかに着眼しています。本問でのポイントは、(1)開発元から顧客への著作権・意匠に係る権利の移転、(2)開発元による顧客に対する著作者人格権の不行使、(3)開発元の手元に残る権利の3本柱が骨組みとして表現されているかという点にあります。なお、同問中「本契約に基づき開発元に留保されるものを除き」という下りの「本契約に基づき」がどこに係り受けするのか判断に苦慮されたとおぼしき解答もありましたが、文意及び句読点の位置からして直後の「留保される」に係ると解釈すべきところと思料します。
 次に、第3条第3項は、課題文を通じて、著作権に基づく許諾が必ずしも特許権に基づく許諾を意味しないことを注意喚起し、実務上の参考情報を提供したいことを主眼とするもので、それ以上のものを意図したものではありません。本問では、「本ライセンスに基づく本プログラムの顧客による使用により不可避的に伴われる」の箇所を、「使用」を修飾するものとして関係代名詞の非限定用法で表現したり、「使用を許容する」理由として表現するなど、複数の訳例が見られましたが、ここで問題としているのは、あくまで「不可避的な使用のみ」を許容するという趣旨であり、これを裏返すと、「不可避的ではない使用は許容しない」ということを意味します。よって、関係代名詞の非限定用法による表現や、「使用を許容する」理由としての表現では、「不可避的でない使用の排除」という意味合いが見いだせず、もっと工夫が望まれるところです。
 最後に、第10条第2項は、文自体が長文となりがちでかつ様々な要件・要素が盛り込まれがちである損害賠償条項を、要件・要素ごとに整理して、適宜文を切りながら、正確にかつ分かりやすく表現できるかを試しています。ポイントとしては、(1)対象となる損害の要件を抽出すること(つまり、侵害した結果としての損害であること、現実且つ直接に被った損害であることの2つ(又は3つ)の要件)、(2)第1項に定める賠償額上限の例外として、対象損害を全額賠償すべきこと、(3)賠償義務が発動する要件を抽出すること(つまり、書証による証明、及び合理的協力の供与の2つの要件)の3本柱を骨組みとして組み立てていくことです。上記(1)及び(2)は、一文で表現せざるを得ないかもしれませんが、上記(3)については、文を切って表現することも検討できます。なお、「賠償」の訳としては、payやcompensateを使用した訳例が多かったですが(間違いではなく減点していません。)、より英文契約らしい表現としては、indemnifyを用いる方がよいように思います。
 採点に際して感じた共通の課題として、「定義語」の扱いが挙げられます。前回もこの点が指摘されますが、日本語原文の定義条項に記載される語や、“以下「XXX」という。”形式で記載されるXXXは、契約上特別な意味を持つものですので、英語に翻訳する際も必ず定義語であることが分かるように先頭大文字で記載する等して、正確に反映することが必須です。特に、第3条第3項中における「本特許発明のライセンス」の「ライセンス」とは、特許権に基づくライセンスであり、定義語である「本ライセンス」(∴著作権に基づくライセンス。第3条第1項を参照。)とは別個のものであるため注意が必要です。
 また、その他の法務系の翻訳を扱う際のテクニックとしては、日本語で記載されていることの裏を考えてみて(反対解釈といいます。)、翻訳語の英文がその裏返した意味からしても違和感がないかという検証をするとより精度が高まるように思います(第3条第3項に関する上記解説がよい反対解釈の例です。)。
 知財法務翻訳の中でも、契約の翻訳は、独特の言い回しや法律的な専門用語が多く、勉強しにくい感があることは否めません。しかしながら、上述の通り、記載されていることを噛み砕き英語で表現しやすいように整理して(和文和訳)、英語で表現していくという和文英訳の原則に従って訓練をすれば、合格点を十分狙えるものと思料します。英文契約書に関する書籍を基に勉強されることもよいでしょうが、必ずしも英文契約書を題材とする必要はなく、和文和訳に力点を置くものであれば、別分野の書籍(例えば特許明細書翻訳に関する書籍など)を基礎としても実力を養うことは十分に可能なように思います。残念ながら今回合格とならなかった受験者にも、上記した点などを参考にされ、ぜひ再度チャレンジしていただきたいと思います。

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1級/電気・電子工学

第22回 知的財産翻訳検定 1級/電気・電子工学 講評


 全体としては、実力の高さが感じられる答案が多く、合格答案と不合格答案の差は僅かでした。
 不合格答案の多くは、僅かな文法ミス、小さな訳落ち、又は原文に忠実でない訳などの積み重ねにより不合格となっていました。しかし、このような僅かなミスが、プロの翻訳者として仕事を受ける場合においても評価を大きく左右します。文法ミスを指摘されて不合格となった受験生は、指摘された箇所に限らず、今一 度文法の基本を見直し、基礎力のアップを図っていただきたいと思います。
 訳落ちも、ケアレスミスの場合もありますが、何度も繰り返してしまう場合は全体として基礎力が十分でないものと判断されます。日頃、良質な英文に触れる機 会を多くすることにより、ミスの少ない、読みやすい英文を書く力がついていくと思います。
 また、特許翻訳では、原文に忠実に訳出することが求められますが、不合格答案の中には、その意識が十分でないように思われる答案も散見されました。短文化 したり、英文らしい表現に変えることは好ましいことがですが、原文本来の意味を変えてはいけません。原文の執筆者が何を表現したかったのかを十分に考え、それに沿った訳出をすることを常に心がけて下さい。英語と日本語の言語構造の違いがあるので、 原文の日本語に何らかの補足をしたり(主語を補うなど)、冗長部分を落としたりすることはあり得ます。しかし、落とす場合に、これを落として果たして大丈夫か?原文の本来の意味から外れてしまわないか?と立ち止まって考える慎重さが、一流の特許翻訳者には必要だと思います。

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1級/機械工学

第22回 知的財産翻訳検定 1級/機械工学 講評



 前回に引き続き、受験生のレベルの高さを感じました。合格者こそは大勢出なかったものの、不合格の方でもボーダーラインに近い方が多く、不合格C判定は皆無でした。一方、合格された方のうち、満点に近いレベルでの合格はなく、ミスによる減点で合格ラインをかろうじて割っていない方もいらっしゃいます。当然のことではありますが、ミスは一つでも減らせる方が良いことの現れになりました。

問1
 ゴルフクラブに関する問題で、ポイントは1行目の「飛んで曲がらない」にありました。これは当然、クラブで打った球筋のことですが、クラブの方が飛んで行ったり曲がらなかったりする内容の翻訳の多さに唖然とせざるをえませんでした。
 クラブが飛んで行くのは論外として、仮に最初に「ボールはよく飛ぶがクラブは曲がらない」という内容の翻訳を下にしても、その後でその翻訳が間違っていることに気づくチャンスが複数箇所、問題に盛り込まれていました。
 まず第一に、この下りはクラブのシャフトが曲がって撓(しな)るものである、それを利用して最大飛距離を出すのだ、ということについての記述です。これを読んだ時点で、1行目の訳を考え直さなければなりません。
 そして、この挙動をうまく使えなければ、「飛距離が落ち方向性も悪くなる」と、最終行に記載されています。つまり、「飛んで曲がらない」との対比です。

問2
 同様の用語があります。数名の方は、「圧接」をpressure weldingと訳してしまいました。確かに、技術用語の訳語として検索するとpressure weldingが多くヒットしますが、実際に現場では「押しつける」の意味で使われていることが多いです。この問の同じ文の続きを読むと、「その接触面に作用する摩擦力」とありますので、溶接されてしまっているはずがないことが容易に分かるはずです。つまり、この箇所においても、途中で気づいて訂正できたはずのミスがそのまま見過ごされてしまったのです。

問3
 磁気軸受の発明を対象とするクレーム翻訳でした。磁気軸受とは、回転体を磁気浮上によって支持する軸受です。技術的には難しくないのですが、機械的な構造が少し複雑で翻訳の難易度が上がっています。さらに、本問題では、プリアンブルの翻訳に注意が必要です。プリアンブルは、「回転軸(12)を有し、前記回転軸(12)から外側に向かって延びている遠位領域を有する軸力部材(11)用の電磁軸受(10)であって、」となっています。
 「軸力部材(11)用の電磁軸受(10)であって、」となっているので、発明の対象は、電磁軸受(10)です。軸力部材(11)は、発明の構成に含まれません。軸力部材(11)は、発明の対象を説明するためにプリアンブルに記載されています。
 一方、米国特許出願実務では、プリアンブルの記載は、発明の構成ではないとされ、原則として特許性の判断において無視されます。このような観点から軸力部材(11)をプリアンブルからボディの部分に移して発明の構成に加えると積極ミスとなります。権利行使時において、電磁軸受(10)が軸力部材(11)を含まず、単体で販売されたときに、文言上は、権利範囲外となるからです。従いまして、プリアンブルにおける「〜用の」という記載には注意が必要です。
 1級レベルの受験生ともなると、米国特許実務をよく知っている方も多いのですが、時として積極ミスとなる場合もあるので、注意が必要です。
 今回は、クレーム翻訳の難易度を少し上げましたので、完答できる方が少ないのではないかと思いましたが、8割以上の方が完答しました。特に上位層では、受験生のレベルが上がっており、これに伴い合格者も増加しました。今後、さらに合格者が増加するのではないかと期待しています。

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1級/化 学

第22回 知的財産翻訳検定 1級/化 学  講評



 今回の受験者は、解答者全員のレベルがかなり高く期待されたのですが、正確さに問題がありもう少しで合格までの方が多数となりました。
 今回の受験者の傾向から考えられる、合格へ向けた有効かつ簡便な一般的手段の一つは、訳抜けを防ぐことです。訳抜けが重視される理由は、審査段階で他の部分から補充可能な場合もありますが、万一、見逃されてそのまま登録になってしまった場合、海外で権利無効又は権利行使が認められなくなるおそれがあるからです。権利化後の出願書類は、特許権者が権利範囲を主張する根拠となる一方、権利の無効を攻撃してくる相手側の根拠ともなります。たとえ明白な訳抜けや誤訳でも、裁判での争いになると多額の費用がかかりますので、争いが発生する可能性はできるだけ避ける必要があります。
 例えば「複数枚」や(「カーボネート系溶媒」中の)「系」の省略は権利範囲に影響しますし、実施例での時間(30分間)や条件(一角を支持した状態)の抜けは、当業者による追試が不可能であるとして記載要件違反となるおそれがあります。
 抜けの防止法は、逐語チェックです。問題文と解答を見比べても良いし、問題文の機械翻訳を解答と見比べることもできます。機械翻訳は抜けが無いのが利点ですが、文言の整合性が無く、文法的に間違っていることが多いので決して過信しないでください。
 今回の受験者にとって次の有効な手段は、クレーム記載に慣れることです。発明は、従来技術の課題を解決する手段です。クレーム(一般的なJepson claim)は、その発明の属する従来技術との共通部分(preamble)と、課題を解決する部分(=発明の特徴的部分)から構成されます。なので、characterized in thatは、発明の特徴的部分(「であって、・・・ことを特徴とする」の間の「・・・」)の前に置き、その後はwhereinを適当に使うのが一般的です。従属クレームではcharacterized in thatではなくwhereinを使うのが一般的のようです。なお、実際に発明の特徴的部分なのかどうかは審査の段階で判断されるので、出願段階の翻訳では考える必要はありません。
 クレーム文言においてconsisting of、made of、composed ofなどを使用すると範囲限定の理由になりやすいため、訳が適切であるかの注意が特に必要です。しかし、何でもcomprisingとするのも好ましくありません。世界のどこかで争われる裁判において、原文と違うのは・・・のせいだ、だから無効であると言いがかりを付けられる原因になる場合があります。
 なお、正確さを向上させるには、化合物の名称はIUPAC命名法を基本にしていますので、ハイフンやスペースも気を付けましょう。
 また、文章中に略語(MD、TDなど)がある場合、その原語を当たる癖をつけましょう。MD directionとするとdirectionが重複してしまいます。
 その他、翻訳者がその分野の最新技術を理解している場合以外は、原則として逐語訳を推奨します。たとえば、「標準状態」がambient temperature and pressureであるかは異論があります。
 しかし、たとえ辞書に記載されてある文言でも、状況によっては不明確になり好ましくない場合もあります。元素elementを説明しているのに「構成元素」をconstituentと訳す、電圧voltageは電位(potential)の差であるのに、「高電位」をhigh-voltageと訳す、Lines には曲線も含まれるのにStraight を省略する、「複合酸化物」は単なる混合物ではないのにmixを使用する、などは明確でない又は別の意味を表すと解釈されるおそれがあります。
 今回は化学系には不慣れな図面を利用した問題でした。図面では、数nから始まる2ケタ以上の符号はみな部材nに関係する部材を表すのが一般的です。このことと図をよく見ると、金属フレーム(2)は外周壁部(20)と板状部(21)から構成されることが理解できます。
 なお、減点対象にはしませんでしたが、明確性のために文言の統一が求められる場合があります。Thermal shrinkageの項目でcontractionを使う、scintillator crystal に関する説明でluminescence、emission、light emittingなどを使用する、Betterの欄に(Best)と記載するなどは、注意した方が良いでしょう。
 評価の日本語表示中の全角◎等は英文で使用できませんし、◎が「非常に良い」を表す通念もありません。しかし、図表中に◎等が表示されており、翻訳文にはその図表等を含めない場合は、適切な表現で全角◎等を表す工夫をする必要があります。
 以上、気がついた点について説明しました。知財翻訳者の参考にして頂き、技量の向上の一助になれば幸いです。

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1級/バイオテクノロジー

第22回 知的財産翻訳検定 1級/バイオテクノロジー  講評


 バイオテクノロジーと言っても、環境分野、農学分野、医学分野等多岐にわたり、さらに、一又は複数個体に関する大きいものから分子生物学など小さいものまで含まれるため、幅広く対応する必要があります。必要に応じてインターネット等で専門的な技術について調べる必要もあります。本試験は、英語力は勿論のこと、専門知識、さらには正しい用語等を調べる力が問われるものと思います。

問1
 技術的な知識より、英語の表現力を問う問題になっています。例えば、最後の文で、「現代社会が抱える、超高齢化社会などの問題」という部分をそのまま英語に訳すと”problems in modern societies such as super-aging society”となり、super-aging societyがどこにかかるのかがわからなくなってしまいます。ここは、「超高齢化社会などの問題」を「社会の超高齢化などの問題」と言い換えて訳すことで、筆者の意図を変えずに自然な英語になります。特許翻訳は英文和訳ではないことを、常に頭の片隅においてください。

問2
 特定の場面で、どういう表現を用いるか、という問題です。例えば、日本語での使役形や受動態がたくさん出てきますが、能動態で訳すのか、受動態で訳すのか、使役で訳すのか、allowなどを用いるのか、あるいはそのほかの形にするのか、をケースバイケースで考える必要があります。なお、「前駆細胞内にこれらの遺伝子を導入し、」における「これらの細胞」については、「これらの遺伝子」を前駆細胞に同時に導入するわけではないので、英訳としては「これらのうちのいずれかの遺伝子」と訳すことになります。そのままthese genesと訳すと、両方の遺伝子を導入することになりますので、誤りです。

問3
 実験の説明について英訳する問題です。出題意図は、日本語では省略されている主語を適宜補って、適切に訳すことができるかどうかを確認するものでした。その点に関しては、ほぼできていますが、専門用語は、ややミスが目立ちました。Phosphate Buffered Saline (PBS)は、リン酸緩衝液(phosphate buffer)に塩を追加したものであり、用途が異なります。また、ウシ血清アルブミンは、calf serum albuminと記載することもありますが、他の箇所でBSAと記載されていることから、bovine serum albuminと訳す方が望ましいと思います。

問4
 比較的容易な請求の範囲の翻訳です。請求項1において、「ポリペプチドを構成するアミノ酸配列」という表現が訳し難かったようです。シンプルに考えて「ポリペプチドのアミノ酸配列」とすれば訳しやすかったと思いますが、「構成する」にとらわれて、誤訳とつながった例がありました。さらに、日本語では、「第32〜412位のアミノ酸からなるポリペプチド」になっていますが、その意味するところは、おそらく、「第32〜412位のアミノ酸配列からなるポリペプチド」と思われます。日本語からは、アミノ酸の順序を問わず、第32〜412位のアミノ酸の種類と数がポリペプチドと一致していればいいとも考えられなくはありませんが、想定しにくいと思います。したがって、日本語にはない「配列」の語を補って訳すのが無難と思われます。また、請求項5を翻訳するときには、通常、「前記ポリペプチドのLKRおよび/又はSDHの活性を修飾する物質を選択する方法」が筆頭に来ると思いますが、この「前記ポリペプチド」は、「請求項1に記載のポリペプチド」です。したがって、日本語と英語との語順が逆になることを考えて訳す必要があります。和英・英和を問わず、前記又はtheにより修飾される名詞が、何に相当するかに注意してください。

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2級

第22回 知的財産翻訳検定 2級 講評



問1
 総括:優れた回答が多かった印象ですが、英語特許クレームの基礎ルールをわきまえていないと思われる回答も目につきました。

 1.1.インデントをタブではなく、空白多数で行っている例が多く見られます。スタイルに従うのが第一ですが、英語表記の基本をしっかりと習得することが常識です。
 1.2.ある機能を果たす構成要件の基本表現は、「a storage battery <for> supplying the electric motor with electricity」のように、forで後置修飾する表現が多いと思います。機能を表現する方法は、以下のようにいろいろあると思いますが、その表現を使う理由を考えてケースバイケースで使い分けることが必要でしょう。
 a storage battery for supplying
 a storage battery that supplies
 a storage battery configured to supply
 a storage battery supplying
 1.3.請求項3において、構成要件があらたについ課されているのでfurther comprisingを使用しなくてはなりませんが、これを見逃した例が多く見られました。
 1.4.請求項中でantecedent basisなしでtheを使用する例も見られましたが請求項中では冠詞は厳密に判断して使用しなくてはなりません。
 1.5.transitionの表現では、 An electric wheelchair, comprising: のように、comprising以降は独立分詞構文ですので、同格のコンマが必要なことを理解してください。 An electric wheelchair comprising: という表現も文法上はあり得ますが、この場合はwheelchairが単純な名詞で直接後置修飾できる場合のみに使える表現です。

問2
 総括:課題文の内容はよく理解されていたようですが、英訳は意外と難しかったようです。    不適切用語(技術用語・特許用語)の使用が目につきました。

 2.1.用語調査が不足している例が見られました。大気atmosphereと空気airは概念が違います。水蒸気も「日常語の蒸気steam」と「技術用語の水蒸気water vapor」とは異なるものです。
 2.2.多くの方ができなかったのが、日光が大気に「入射する」という表現でした。入射は単純に「入る」でenterでよいのですが、なかなか難しかったと思います。よくある回答がincidentという表現でしたが、これは形容詞で状態を示します。状態と動作は分けて考えるのが通常です。
 2.3.赤外線は基本的な訳はinfrared ray(s), infrared radiationでしょうが、infraredのみの用例も多いのでこれも可としました。
 2.4.「亜酸化窒素」は難しかったでしょうか。辞書をしっかり引けば正しい訳語は見つけることができたはずです。Wikipediaにさえも載っています。調査は翻訳の基本です。
 2.5.「特願」が誤訳されている回答(例えば、”published patent application” など)がいくつかありました。「出願」、「公開」、「特許」などの基本的な語の概念をしっかり理解することが大切です。

問3
 総括:技術的な内容が十分理解されていないための誤訳、単数複数の不整合、などが目につきました。

 3.1.「パネルで構成される」は、意味を理解すれば「作られている」に過ぎません。原文が難しすぎる表現を使っていても、意味を正しく理解すべきでしょう。
 3.2.意外にできなかったのが、「出し入れ」という表現ですが、これはtake in and outでも意味は通じますが、テクニカル英語は、単義語を使うべきで多義語の組み合わせは避けるのが普通です。load and unloadでしょう。ちなみに「取り込む」はtake in よりも、incorporateでしょう。
 3.3.機械分野の翻訳で難しいのが、「もはやその状態になっているのか、その状態にすることができるのか」によって訳が異なる点です。 「接続されるようになっている」は「必要なときに接続できるように装置が作られている」という意味なので、be adapted to be connectedです。これをbe connectedとするともはや接続されているという意味になります。
 3.4.原文にも責任がありますが、「エアパッキン」は「エアの漏れないようなパッキング」という意味で、「air-tight packing」が正しい訳です。単にair packingでは多くの例に見られるように、いわゆるプチプチと理解されかねません。Googleで「エアパッキン」「air packing」で検索すると多くの例がプチプチを示しています。正しい技術的知識が重要であるという例です。
 3.5.キャスターの「旋回」については、一般的には構造上、”swivel” が適訳と思われますが、キャスターホイールの回転軸(水平)が旋回軸(鉛直)上にある場合もあるので、”rotate”, “turn” なども正解としました。

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3級

第22回 知的財産翻訳検定 3級 講評


 解答例と解説をご覧下さい。


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