第8回知的財産翻訳検定<第5回和文英訳>試験 標準解答と講評

標準解答および講評の掲載にあたって

 当然のことながら和文英訳の試験では「正解」が幾通りもあり得ます。
 また、採点者の好みによって評価が変わるようなことは厳に避けるべきです。このような観点から、採点は、主に、「これは誰が見てもまずい」という点についてその深刻度に応じて重み付けをした減点を行う方式で行っています。また、各ジャンルについてそれぞれ2名の採点者(氏名公表を差し控えます)が採点にあたり、両者の評価が著しく異なる場合は必要により第3者が加わって意見をすりあわせることにより、できるだけ公正な評価を行うことを心がけました。
 ここに掲載する「標準解答」は作問にあたった試験委員が中心になって作成したものです。模範解答という意味ではなく、あくまでも参考用に提示するものです。また、「講評」は、実際に採点評価にあたられた採点委員の方々のご指摘をもとに作成したものです。 今回の検定試験は、このように多くの先生方のご理解とご支援のもとに実施されました。この場をお借りして御礼申し上げます。
 ご意見などございましたら次回検定試験実施の際の参考とさせていただきますので、「標準解答に対する意見」という表題で検定事務局宛にemail<kentei(at)nipta.org>でお寄せください。※「(at)は通常のメールアドレスの「@」を意味しています。迷惑メール防止対策のため、このような表示をしておりますので、予めご了承ください。」


1級/知財法務実務


第8回 知的財産翻訳検定 1級/知財法務実務 講評

This year’s examination was the first to involve a direct translation of the text of a court opinion. The basic idea behind this choice was that foreign clients working in Japan at some point often need an explanation of Japanese patent law that can only be gotten from reading important cases in the law. This was one such case. All Examinees handled the test at least reasonably well, some impressively so. Full and faithful translation of the text is always very important, as is the correct translation of legal terms of art. Thus, for example, 「特許権消尽理論」which is a legal term of art, is probably best translated as “the doctrine of patent exhaustion”. Again, most Examinees did very well on this point. The general structure of the text used in this exam ? Background, Parties’ Arguments in the first part, and the Court’s Ruling (also “Holding”) with detailed reasoning in the second part ? is, with some variation, very typical of court opinions. You can keep this in mind if you are ever called upon to provide a translation of other legal proceedings, whether court cases of trials for invalidity in the JPO.



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1級/電気・電子工学

第8回NIPTA翻訳検定 1級/電気・電子工学 講評


 和英翻訳としては第6回目となりますが、他の技術分野(機械工学および化学)と同様に、今回も三つの課題(クレーム、背景技術、実施例)で試験問題を構成しました。まず、第一課題は、携帯電話機に関するもので、携帯電話機自体の位置情報を簡便に取得することに関連した発明についての独立クレームと一つの従属クレームを選びました。第二課題は、照明装置に使用する場合の太陽電池の容量と消費電力のバランスに関する発明の背景技術記載からの出題です。そして、第三課題は、工場などの自動化システムで利用される製品の識別システムにおける情報の読み出し/書き込み装置に関する発明の実施例記載からの出題です。

 今回の問題では、特に課題2が難しかったようで、ここをクリアできるかどうかで1級の合否が分かれました。基本的には、課題1のクレームでは、特許翻訳に対する習熟レベルを、課題2では、舌足らずな日本文に対する英文化の実力を、そして、課題3では、実施例の記述に対して正確にケアレスミスなく構成できるかどうかが試されます。  さて、課題1を振り返ってみますと、まず、二つのクレームは、形式、用語の統一、用語の選択などいずれの面においても概ね良く書かれていました。構成要素における「手段」に関る訳については様々な考え方があることから、明らかな誤訳と判断できる場合以外は正解として採点しています。一つのポイントは「位置情報」を主題の携帯電話それ自体の「位置情報」として解釈するかどうかでしたが、殆どの回答は正解でした。従属クレームの方では、3つの条件のうち少なくとも一つ、という内容の訳に対して、マーカッシュクレーム形式を使用している回答がありましたが、3つ以外の条件を排除するのが妥当かどうかは判断できませんので、“at least one of”とすべきです。

 次に、課題2は、論理だった英文に仕上げるための工夫が必要となり、特に最初のパラグラフでは実力の差が出たようです。原因と結果がある程度複雑に絡まる文章について普段から練習をしておくことが望まれます。語句のレベルについても明確に差が出ました。たとえば、「原理上」について いくつかの回答が “due to the device’s principle”としていましたが、簡潔に “in principle” が良いです。「停電」に関しても、太陽電池の電力が消耗しきって電力供給が出来なくなる場合の「停電」即ち「点灯できない状態」という意味ですから、電力会社からの電力が停電するという意味の回答がいくつかありましたが誤訳です。括弧書きの先行技術については、括弧の中での処理でも、括弧から外して通常の文章中に入れ込んだとしても、誤訳などがない限りどちらも正解として採点しました。

 課題3は、内容として特に難しい文章ではありませんでしたので、皆さん概ね良い翻訳をされています。この実施例では、特にケアレスミスがないように翻訳することが求められます。たとえば、“micro computer” は1語にしてください。参照番号の抜けもまだあるようです。また、部品の名称に関しては、初出かどうかの判断と冠詞の選択に問題を残す受験者の方がいます。最後の文章で、「・・・、操作中、及び・・・読み出された後であるから、通信中に・・してもなんら差し支えない」という文章の「後であるから」に対して、何名かの方が、「後だけであるから」と強調した解釈をして”only after”のようにしていましたが、この強調は不要であり”only”は付加すべきではありません。

 今回、電気電子工学分野では4名の方々が1級合格者として認められました。4名の方々にはその努力と才能に心より賞賛の意を表したいと思います。惜しくも僅かの差で1級に手が届かなかった受験者の皆さんも多数おられますが、殆どの方々はかなりのレベルに達しているという採点結果ですので大変残念に思っています。是非とも更なる研鑽を詰まれて再度挑戦していただきたいと期待しています。

問題(電気・電子工学)PDF形式170KB  標準解答(電気・電子工学)PDF形式47KB



1級/機 械


第8回 知的財産翻訳検定 1級/機械工学 講評


   今回は致命的なミスで大幅な原点を受ける受験者がほとんどいなかった一方、全般的に雑な翻訳が目立ち、細かい減点の積み重ねにより合格ラインを割ってしまったのがほとんどの方でした。実際、合格ラインに一人も届かなかったものの、ほぼ全員が合格ラインから5点?10点以内の範囲に達していました。

(問1) 問1に関しては、特に日本文として難解な文章を選択しておりませんが、適切な用語の選択と、語順に注意を払う箇所を何箇所か設定しています(遊びの記載、マグネットとの関係等)。その結果、内容が難しくない割には意外と適切に翻訳しにくい問題となっています。翻訳者の方もほぼ英文法的な誤りはそれほど見当たりませんでしたが、1、2問題点を挙げると、やはり、適切な用語の選択と、語順に注意を払う箇所で失敗したために意味が不明瞭になっている記載がありました。例えば、「係止」をlockと訳して正しい場面もあるでしょうが、ここでは完全な誤訳です。Retain、catch、stopなど、仕組みを適切に表現する訳語が求められます。また、多くの方がバランスをそのままbalanceと訳されていました。ところが、ここで従来問題として提起しているのは、バランスが取れていた状態が崩れて衝撃が発生するということではなく、相反する力が拮抗する「均衡」が崩れた結果生じる衝撃です。そう考えると、balanceよりも適切な表現は様々あるはずです。受験者の一人はthe distance moved by the turntable overwhelms the attraction of the magnetとされていました。ここでoverwhelm(圧倒)よりはovercomeがより適切と思いますが、現象が非常に判り易い訳文になっています。知財翻訳にはこのレベルの原文理解と工夫が求められます。  「アバレ」の訳語で苦労された方も多いと思いますが、実は現象を表現できる言葉ならば何でも構いません。ただ、間違っても辞書で「暴れる」を調べてその訳語をそのまま充てることはしてはいけません。構造や動きを頭の中で理解し、和文をさておいて、頭の中にあるものを英文で書き下ろす、これは特に米国出願において重要なことです。  さらに、「いわゆる」をso-calledと安直に訳すのはもってのほかです。So-calledというからには、そのターゲット言語でその現象を表現するのにその訳語が広く使われているという確信を持っていなければなりません。逐語訳が求められた時以外は、「いわゆる」は基本的に訳さない、という姿勢くらいがちょうどいいでしょう。 このように、動きを一つ一つ順に捉えていくと間違いがない訳ができると思います。不明瞭な記載を特に減点対称としました。

(問2) 問2に関しては、実施例の記載であり、図面も添付されていることから英文法的、また内容的にも特に問題と成る出題ではありませんでしたが、単語の使用に注意の問題です。例えば、被クリップ板10を如何に表すかは問題です。クリップされる前、クリップされた後、等使用する単語によっては使い分ける必要が在るかもです。図面添付の訳は、本文の内容と図面の内容を上手く一致させた訳を心がけることが必要です。 全体に、特に図示の状態とかけ離れた訳はあまり見当たりませんでした。

(問3) 問3で問題にしたのは、毎回同じですが、クレーム1を米国形式のクレームとしてcomprising形式に上手く作成できるか、を特にポイントに置いた点ですが、この点に関し、課題の日本文を少しばらし過ぎたせいかもしれませんが、多くの方が構成要件の捕らえ方を間違っていました。“おいて書き”の部分までが本切断装置の構成要件で、その中のブレード装着機構の構成要件が、支持部材と、リング部材と、弾性部材です(ヒントはクレーム2にも入れておいたのですが)。このように捕らえて、後の各要件の説明文を適切な場所に書き込むと英文としてすっきりしたクレームの文章になります。 なお、近年、means、saidは使わないほうが良いとされています。但し、実際に現場で使われているところもあるため、減点の対象にはなっていません。

全ての問題に関して、問題文の割には点数が伸びなかったようです。もう少し原文の内容をしっかり理解して、適切な単語を選択して欲しかったです。

問題(機械工学)PDF形式140KB   標準解答(機械工学)PDF形式60KB



1級/化 学

第8回 知的財産翻訳検定 1級/化 学  講評

 今年度の化学は、@金属精錬、Aバイオマス、B有機ELからの出題である。このうち@は、解答者にとって比較的馴染みの低い分野かもしれないが、AやBは盛んに研究されている分野である。技術は時と共に細分化され、多の分野との融合が進むので、特許翻訳者はこのような動向にも対応できなければならない。従って、特許翻訳者には、今回のように異なる分野の技術を正しく理解し、翻訳する力が求められている。

 今回は1級合格者該当なしという寂しい結果に終わった。全体に、もっともらしく訳されているが、実は日本語の真意を伝えていないという解答が多かった。また、一部の解答では訳漏れが認められた。  訳漏れは、特許翻訳では最も嫌われる事項の1つである。いくら残りの部分の翻訳が優れていても訳漏れがあると、その翻訳の価値は大きく低下する。翻訳完了後に、きちんと原稿と翻訳文を対比して、訳漏れがないかのチェックをする習慣を身につけてほしい。 次に、特許翻訳は技術の理解力と理解した技術を正しく英語にするための能力が必要である。つまり、日本語の読解力と英語の表現力の両方が備わっていなければならない。これは、通常の技術翻訳と変わらない。さらに、他人が読んで通じる英語が書けているかを、自分自身でチェックできる能力が必要である。書いた英語を、通して読み直してリズミカルに読めなければ、他人にはその英語は理解できないと思って間違いない。また、クレームのように重要な部分は、翻訳後に書いた英語を日本語に戻してみて、その日本語と元の日本語を細かく対比してチェックするくらいの入念さが必要である。 意味不明訳も目立つ。意味不明訳は@原文の誤解、A英語の表現力不足、B不適切な用語の選択によって発生する。@は論外として、AやBが原因と思われる解答も多かった。単語の語順や前置詞の使用が不適切なだけで、意味不明になっている解答もあった。採点者の指摘事項をよく読み直して、欠点を早く是正してほしい。

問1が最も難しかったようで、満足できる解答はほとんど見られなかった。その原因の1つに、方法クレームの工程の数を正しく把握できていないことがある。標準解答は8工程で書かれている(標準解答の3つ目と最後の工程は2つに分けることもできる)が、すべて工程の内容が正しく表現されていないとクレームの翻訳として成立しない。特許翻訳の中でもクレームとそれに関連する部分は、最も重要なところである。試験においても、同様でこの部分がきちんと翻訳できていないと評価されない。 問2、問3は技術の把握はそれほど難しくない。それでも、原文の意図を正確に伝えていない解答が見受けられた。その原因として英文の表現力の不足が挙げられる。よい英文を書くためには、英語国の特許出願の中で比較的やさしく書かれたものを見つけ出して、何度もそれを読むとよい。また、1つの日本語に対して、可能性のある主語をいくつも見つけ出して、それに基づいた英作文を試みることで表現の幅も広がる。

そのほか、採点を通して気付いたことは、@可算名詞と不可算名詞の区別ができていない(例:a uv light=光は不可算名詞)、A単数と複数の表現の区別ができていない(例:various biomass)、B定冠詞と不定冠詞の使い分けができていない、C動詞と名詞の不適切な組み合わせ(例:a light is illuminated)など、日本人の最も苦手とする部分が未解決なままであることである。これらは基本的な文法のひとつなので基礎をきちんと固めてほしい。 今回は合格者なしという残念な結果に終わったが、受験者の皆さんは、自分の解答と標準解答を比べ、また採点者からのコメントをよく読んで自分の欠点を克服して再チャレンジされることを切に願っています。


問題(化学)PDF形式148KB   標準解答(化学)PDF形式46KB



2級

第8回NIPTA翻訳検定 2級 講評

出題意図は、@ 特許翻訳、特に請求項(クレーム)の翻訳についての基本的な知識が備わっているかどうか、A クレーム英語の表現力が十分であるかどうか、B 簡単な技術を理解する能力があるかどうか、の3点を評価するものです。

@ 基本的な知識に関しては、クレーム従属関係のとらえ方、構成要素の立て方など適正かどうかを評価しました。例えば、課題文のクレーム2には、「可橈構造とした支持腕を有する」という記載がありますが、この「支持腕」は既に請求項1で述べられている支持腕のことであることは明らかですから、例えば、"(further)comprising a support arm" などのように追加の構成要素として記述するのは、further の有無にかかわらず誤りとしました。約3分の1の解答がそのようになっていました。また、構成要素の特定については、米国出願用の翻訳であれば標準解答のように、「支持腕」を構成要素として抜き出すのが望ましいのですが、「米国出願用の翻訳」というような限定は特に付されておりませんでしたので、原稿に忠実に 例えば"wherein the holder is connected to the base through an arm" とした訳なども減点の対象とはしておりません。

A 英語表現力については、クレーム1やクレーム3にでてくる「…れるべき」をどのように処理したか、クレーム2の「組み込むことにより」がどのように訳されたかなど細かい点に着目しました。「取り付けられるべき」を、単に"attached to"のように、「取り付けられた」と訳した解答がかなりありました。

B 技術理解力については、主に、クレーム3に述べられた充電経路がただしくイメージされているかどうかを重視しました。"charger to be connected to a vehicle power supply through a connection code" のように、「接続コードを介して」がどこにかかるか正確に把握していない訳例が目に付きました。

以上

問題(2級)PDF形式71KB  標準解答(2級)PDF形式49KB





3級

第8回NIPTA翻訳検定 3級 講評

下記の解答と解説をご参照ください。

問題(3級)PDF形式6.23 MB  解答と解説(3級)PDF形式142KB

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