1級/知財法務実務
第12回 知的財産翻訳検定 1級/知財法務実務 講評
This year's examination was different from, and more difficult than, previous years' tests: Examinees were required not only to translate but also to summarize, or brief, an actual IP court case. In other words, examinees had to read and understand the opinion and the patent drawings and decide what to include in the brief-and only then translate. Overall they did an outstanding job.
The main problem was identifying the issue; once that was determined, the rest comes naturally. In this case, the issue was whether the defendant's sink read on the tapered rear wall element of claim 1 of the '870 patent. The answer requires that both the patent claim and the allegedly infringing sink be described in just enough detail that the reader can follow the court's reasoning and thus the significance of the case ? the holding, what the case means for future situations --- can be understood. Note that too much background information tends to cloud the discussion.
Examinees appeared to have the most difficulty in deciding what to leave out of the background/lower court disposition and the appellate holding. In general, too much detail was left in rather than too little. For example, in describing what happened at the lower court, it is not necessary to spend a lot of time describing the holding or even the reasoning; just a short, basic summary is sufficient. At the same time, however, it is helpful to summarize the parties' arguments; for one thing, such a summary tends to facilitate identification of the issue. Bear in mind that some cases may have more than one issue. Finally, a single sentence summarizing the final holding in the case should be sufficient.
問題(知財法務実務)PDF形式522KB 標準解答(知財法務実務)PDF形式34.5KB
1級/電気・電子工学
第12回NIPTA翻訳検定 1級/電気・電子工学 講評
作成された訳文は、「翻訳」という立場から逸脱することなく、読みやすい英文になっているかという観点から評価しました。
問1は、複数の装置からなるシステムのクレームです。システムの構成要素とそれぞれの装置の構成要素とを正しく抽出し、それぞれの装置間の関係を正しく翻訳できているか、また、「自装置」の示すものを適切に表現できているか、「自速度情報」、「下位速度情報」、「分散対象となる」等の訳しにくい用語を工夫して翻訳しているかが問1のポイントでした。
参考図面を参照しやすいように課題文には参照符号を付しましたが、米国出願用クレームでは参照符号の記載は特に必要ではありません。参照符号を使用しなくても構成が理解できるように翻訳する必要があります。本クレームは、複数の画像形成装置が画像形成システムに含まれており、そのひとつひとつの画像形成装置が「記憶する手段」以下の要素を備えている、という構成になっています。ここでの「自装置」はそのひとつひとつの画像形成装置を示しています。「自」とあったので"own apparatus"等とした解答もありましたが、その場合には、"own apparatus"の示すものを明記する必要があります。同様に「対象」についても安易に"object"などとせず、他の画像形成装置と分散して画像形成を行う、という理解の下で訳文を作成するなど、翻訳に工夫がほしいところです。
その他、訳抜けや表現の不統一も散見されました。クレーム中では、僅かな訳抜けが致命的になりかねません。また、表現の不統一も先行詞(antecedent basis)がないと取られかねません。クレーム中でのそのような瑕疵は翻訳全体への信頼を低下させ、悪印象を与えてしまいます。可能な限り時間をかけて見直しを行うことが大切です。
なお、クレーム中の参照符号の記載については採点の対象外としています。また、クレーム中の「手段」の訳については、顧客により対応が分かれるため「手段(means)」を用いても、別の表現でも可としました。
問2は、背景技術の説明で、@「非線形音響システム」、「駆動用増幅器」、「超音波搬送波信号」、「変調包絡線」等の専門用語を正しく訳せているか、A「の2乗にほぼ比例」、「平方根をとる」等の数学表現が正しくできているか、B「ひずみ」等適切な用語の選択がなされているかがポイントでした。
総じて用語や表現の選択は適切でしたが、訳抜けや文法上の誤りが散見されました。特に、冠詞や単複のミスが多く見られました。本課題には特に図面は添付しておりませんが、内容をしっかり追っていけば適切な冠詞も自ずとわかりますし、また技術内容を理解していれば単複に迷うこともないのではないかと思われます。
実際には、冠詞や単複を考慮していない明細書がほとんどで、翻訳の際に常に悩まされるところです。日頃から意識するようにしておきたいところです。
問3は、実施例からの出題です。それほど複雑な文章ではありませんが、読み手が理解しやすいように、多少工夫が必要な箇所もありました。
「図5の補償用コンデンサ6に電解コンデンサを使う場合は、電解コンデンサにはリップル電流の許容値があり、この許容値内に充電動作時の電流を押さえなければならない。」は、「電解コンデンサにはリップル電流の許容値があり」という一般的な記載が挿入されているので、「電解コンデンサを使う場合は、・・・電流を押さえなければならない」とすんなり読めるように工夫する必要があります。また、「前記図5の説明のように、」以下では、明細書中で既出の実施例(図1)とその変形(図5)との相違を理解する必要がありましたが、概ねよくできていました。
問題はいずれもさほど難しいものではなく、日本語の多少不明瞭な部分は参考図面や関連部分を参照することで容易に理解できたかと思います。答案でも様々な翻訳上の工夫が見られました。それだけに、スペルミスや文法上の誤り、また訳抜けによる減点が惜しまれます。これらは翻訳の出来に関わらず、評価を下げてしまいます。ワープロソフトの文章校正機能等を活用するなど、自分なりに工夫して取りこぼしのないようにしてしたいものです。
問題(電気・電子工学)PDF形式237KB 標準解答(電気・電子工学)PDF形式86.1KB
1級/機 械
第12回 知的財産翻訳検定 1級/機械工学 講評
1級では、限られた時間の中で非常に難易度の高い翻訳が求められます。今回の試験では、全体として技術理解、英文表現共にレベルの高い解答が多かったのですが、時間的な余裕が無かったためか、見直しが十分されておらずケアレスミスや細かな訳抜け、文法ミス等の積み重ねで減点がかさんで惜しくも不合格となってしまった方が多く見られました。逆に言えば、あまりにも減点がひどくて合格点には遠く及ばないという方は少なく、何点か注意したり、特に苦手な所を伸ばしたりすればだいぶレベルアップできる翻訳者の方が大勢いらっしゃるのではないかと思います。
また、機械工学分野の翻訳では、原文や添付図面から具体的な構造を頭の中でイメージし、それを正確に英文に変換することが必要です。構造がきちんと頭の中でイメージされていないと、一見すると訳漏れも無く自然な英文に仕上がっていても、係り受けの誤り等で全く意味の違う文章になってしまうことがあります。このレベルの特許翻訳になると字面で訳すと誤訳となる事はしばしばありますし、当然本検定の問題もそれを念頭に問題を作成しています。今回もその様な英文が見られましたので、表面的な原文の文章にとらわれるのではなく、構造を頭で理解してから翻訳する癖を付けて頂きたいと思います。
問1
一見、構造をイメージする事すら無理で、字面通りに訳すしかない文の様かも知れませんが、この問いには大きなポイントがあります。それは、「インターネット検索」です。この技術のキーワードである「多層ばり理論」は、おそらくどの技術辞書にも載っておらず、いくらページをめくっても訳語は出て来ないはずです。そのため、「ばり」を勝手に「張り」や「バリ」と解釈してしまい、誤った造語を訳に充てた方が半数程度いらっしゃいました。その方々は大抵、この技術のポイントを知る事もできなかったため、キーワードのミスという大きな減点に加え、技術の理解不足のために他の訳ミスも犯してしまっています。一方、「多層ばり理論」をグーグル検索された方は、簡単にこの技術を説明した論文に行き着き、Multilayered Beam Theoryが正しい訳語で「ばり」は「梁」であることやこの技術の特徴を短時間で知る事ができ、レベルが高くミスが少ない文を効率よく作成する事ができたはずです。本検定もそうですが、通常の仕事もインターネットが使える環境にいる事が通常ですので、辞書に加え論文などを活用する事も短時間でレベルの高い訳文を作成するための重要なポイントです。
また、請求項2の「異なる場合」を訳す際に、何と何が違うのかを整理せずに単に"different"を充てた方が数名いらっしゃいました。構造をイメージしないまま訳したミスの典型的な例です。文を丁寧に読めば、違いの対象となる比較の相手は存在せず、要するに第1の物質層の高さが不均一な場合を指している事がが解り、"not uniform"など適切な訳語を選ぶ事ができます。
問2
問2は、自動車のエアスポイラに関する問題でした。内容的には特に難しくなく、読解に苦労される方は少なかったのではないかと思いますが、いざ英文に訳すとなると訳しにくい文章でした。
[0002]の段落では、全員方が「バックドア」をそのまま"back door"又は"rear door"と訳されていました。英語では"back door", "rear door"は後部座席のドアを示しますが、日本語では「バックドア」とはリアハッチを指します。しかし、仮にそのような業界用語の違いを知らなくても、エアスポイラのついている箇所をイメージすると、ここで言う「バックドア」は後部座席のドアではなくハッチバックタイプの後部扉を示すことがわかります。このように、カタカナをそのまま英語に訳すと危険な場合が多いので、よく意味を考え、辞書等で確認をして適切な用語を選ぶ必要があります。
また、公報番号「実開昭58-30578」が記載されていますが、これは実用新案の公開公報番号ですので、例えば"Japanese Unexamined Utility Model Registration Application Publication No. 58-30578"のように訳す必要があります。解答の中には、特許の公開公報番号や、実用新案の出願番号と誤って訳出されているものが見られました。原文中の公報番号は重要な情報ですので、よく確認して訳出して下さい。
[0003]の段落は、非常に長い1文で構成されているため、自然な読みやすい英文とするためには、文章を区切って内容を整理して書く必要があります。ほとんどの方がこの点はクリアされていましたが、中には若干読みづらいと感じる英文もありました。
また、「車体後部」という言葉が出てきますが、「車体後部」と言った場合、車体の一部を指す場合と、車体よりも後ろ側の領域を指す場合があります。この問題では、「車体後部のリアスカート」は前者、「車体後部上方に向けて流れ」は後者の意味になりますので、その様に訳し分けすることがベストとかと思います。
問3
問3も、技術的には簡単な内容でした。図面を見ながら丁寧に翻訳すればほとんど問題の無い問題だったのですが、細かな点でミスが見られました。例えば、「真空チャック24」、「突起部84a」は図面を見ると複数あるのですが、単数形で訳出された方が多くいらっしゃいました。また、「軸」は"axis"と訳す場合と"shaft"と訳す場合がありますが、今回は図面を見ると「軸8b」が実体として存在していますので、"shaft"のほうが適切な訳になります。図面は機械の構造を理解する上で非常に手助けになる物ですので、原文と共に図面もよく見て翻訳するようにして下さい。
また、「落下したり位置ズレすることを防止できる」の訳に苦慮なさった方が多かったようです。"prevent A from 〜 ing"の構文を使う場合、〜 ingの主語がAである必要がありますので、例えば"prevent the glass substrate 5 from dropping or displacing" のような文章は不正確になります。標準回答を参考になさってください。
全体的に、回答のレベルは低くなかったもの、あと一歩、あと二歩という翻訳者が多く見られました。合格された方も余裕で合格された訳ではなく、減点がかろうじて合格ラインを下回らなかった、という位置です。今までプロとして特許翻訳をされてきた方であっても、今後は特許翻訳者により高いレベルの翻訳が求められるようになってきています。今から特許翻訳を始められる方も、永年経験を積んで来られた方も、常に研鑽と向上を絶やさない精神が求められます。
問題(機械工学)PDF形式186KB 標準解答(機械工学)PDF形式76KB
1級/化 学
第12回 知的財産翻訳検定 1級/化 学 講評
今回の化学では、3題をそれぞれ太陽電池、エステル、フレーク焼結体に関連した内容にしました。いずれも化学分野の翻訳者としては扱いやすい分野だったのではないでしょうか。ところが、残念ながら1級合格者該当なしという結果になりました。以下、各問題についてコメントしますので、参考にされ、また受験者それぞれへの採点者からのコメントを読み、是非今後の改善につなげてください。
問1
このクレームでは、
(1)前半の構成と後半の方法とをきちんと分けて訳すこと、
(2)方法クレームを2ステップとして訳すこと、
(3)成分の重複に気付き、同じ成分を2度、無冠詞で出してしまわないこと
の3点がポイントでした。
(1)は全員が分けていましたが、その中の構成要素と動詞の使い方に問題がありました。「対極基板」をそのまま英語にしてしまっていいのだろうかと疑問に思う必要があります。この構成では、2枚の基板が互いに最も遠い位置で向き合っており、これを表現できればよいのであって、対極という日本語に惑わされてはいけません。また、このような構成の記述、特に請求項2では動作動詞の使用は避けましょう。
(2)については、ほぼ全員が2ステップで訳していました。
(3)が最も減点の多いポイントでした。成分eosin Yのだぶり、亜鉛塩=ZnCl2であることに気付き、1度のみの記載にするか、定冠詞を付けて2回記載するかの処理が必要でした。
日本語をそのまま訳してしまうのではなく、物の構造、方法の内容を頭の中で整理することがいつの場合も大切です。
問2
この背景技術の説明では、
(1)「POE系(ポリオールエステル)と呼ばれるネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のヒンダードアルコールエステル」について、エステルではなくヒンダードアルコールの例としてネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールを記載すること、
(2)「3価以上の多価アルコール」について、適切に訳すこと、
の2点がポイントでした。
(1)については、ほぼ全員が"hindered alcohol esters, such as 〜"と同様の記載をしており、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールがエステルの例として読める英文となっていました。和文をそのまま訳すのではなく、何が何の例であるのか、意識して訳すことが必要です。
(2)については、多価アルコールの価数は、アルコールの水酸基の数を指しますので、水酸基の数が3以上という訳とします。
また、「塩素を含まない水素含有フロン」の訳語として、CFC(chlorofluorocarbon)を使用した解答が複数ありましたが、ここでは「塩素を含まない」ということを理解して翻訳する必要があります。また、Freonを使用した解答がありましたが、明細書では原稿に記載のない商標名を訳語に使うことは通常避けます。
問3
ここでは、化学式、数値、単位を誤りなく記載し、実験の流れを明確に記載することがポイントでした。解答で特に大きな問題はありませんでしたが、気付いた点は以下です。
数値と単位の間には、°や%等を除いて、通常スペースを入れます。また、和文で使用される「〜」は、to等に置き換える必要があります。「溶液を炉冷する」について、「炉を冷却する」という解答が複数ありましたが、溶液を炉内で冷却することを意味します。
問題(化学)PDF形式118KB 標準解答(化学)PDF形式61KB
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