● 第16回知的財産翻訳検定<第9回和文英訳>試験 標準解答と講評
標準解答および講評の掲載にあたって |
当然のことながら翻訳の試験では「正解」が幾通りもあり得ます。
また、採点者の好みによって評価が変わるようなことは厳に避けるべきです。このような観点から、採点は、主に、「これは誰が見てもまずい」という点についてその深刻度に応じて重み付けをした減点を行う方式で行っています。また、各ジャンルについてそれぞれ2名の採点者(氏名公表を差し控えます)が採点にあたり、両者の評価が著しく異なる場合は必要により第3者が加わって意見をすりあわせることにより、できるだけ公正な評価を行うことを心がけました。
ここに掲載する「標準解答」は作問にあたった試験委員が中心になって作成したものです。模範解答という意味ではなく、あくまでも参考用に提示するものです。また、「講評」は、実際に採点評価にあたられた採点委員の方々のご指摘をもとに作成したものです。
今回の検定試験は、このように多くの先生方のご理解とご支援のもとに実施されました。この場をお借りして御礼申し上げます。
ご意見などございましたら次回検定試験実施の際の参考とさせていただきますので、「標準解答に対する意見」という表題で検定事務局宛にemail<kentei(at)nipta.org>でお寄せください。※「(at)は通常のメールアドレスの「@」を意味しています。迷惑メール防止対策のため、このような表示をしておりますので、予めご了承ください。」
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1級/知財法務実務
第16回NIPTA翻訳検定 1級/知財法務実務 講評
出題意図
今回の問題は、近時の急速な知財グローバル化に鑑み、わが国の裁判情報を英語で発信する場面を想定して判決文の英文要約としました。翻訳検定試験でありながら要約力まで問うのは過酷と思われる向きもあるかも知れません。しかし、特許出願明細書についてとは異なり、知財法務実務の分野で対象と考えている出願後の中間処理(拒絶対応)、種々の法律情報等の発信の局面では、ある文書の全文をそのまま翻訳するよりは、要点を抽出してわかりやすく伝える能力も求められると考えています。出題の意図はそこにあります。
また、トピックとして進歩性の判断基準を取り上げたのは、近年知的財産高等裁判所において客観的な事実関係に基づいたより緻密な判断がなされるようになってきたこと、同一の発明について、我が国を含む複数の出願審査が並行して進行する機会も多くなっており、審査基準について英語で説明する必要が大いに有り得ると考えたためです。
採点のポイント
要約のポイントとしては、
(1)特許庁の審決で無効とされた特許について、知財高裁において審決が取り消された事案であること、
(2)特許庁の審決理由(引用発明等による課題設定の容易性を前提として進歩性欠如と判断)
(3)知財高裁の審決取消理由(主として解決課題設定の容易性について判断の誤りがあったこと)
の点が記載されていれば可としました。なお、今回は該当していませんが、引用主発明(発明A)の課題は、本特許発明の課題とは異なるだけでなくむしろ遠ざける(teach away)ものであることを裁判所が指摘している点に言及されれば、加点対象としたと思います。また、英文については、当検定における翻訳採点基準(誤訳、訳抜け、誤記等の評価)にしたがって評価しました。
総評
試験時間に比して長文に取り組んで頂きましたが、総じて上記のポイントを捉えて要領よく回答されていました。特に英文に関してはいずれも十分な実力を感じさせるできでありました。惜しまれるのは、特許法条文の誤記、問題となった特許発明の構成に関する誤記が散見されたことで、時間に追われて見直し時間が取れなかった等の事情はあると思いますが、いずれも実戦では単なる誤記で済ませることができない重大な記載ミスと見られますので、これらについては相応の重みで採点をした結果やはり合格と判定することはできませんでした。逆に言えば、このような点さえ注意していただけば十分合格レベルであるわけで、ぜひ再チャレンジしていただきたいと思います。
問題(知財法務実務)PDF形式1.40MB 標準解答(知財法務実務)PDF形式36.3KB
1級/電気・電子工学
第16回NIPTA翻訳検定 1級/電気・電子工学 講評
問1について
比較的単純なクレームでしたが、忠実に訳すことができなかった受験生が大多数でした。例えば「発ホストと着ホストのそれぞれが…属性値のいずれに対応するかを判別する」を「属性値のいずれかに対応する」と訳出したり、「…と外部データを照合する」の訳語が適切でないため、クレームとして読んだ場合に論理的に矛盾し原文と異なる構成内容となっているケースが多くみられました。明細書本文がない状況でクレームを翻訳するのは簡単ではありませんが、クレーム文言が示す範囲で各構成要素の技術、構成要素間の関係、全体の作用をまず理解し、それが正しく読み手に伝わる訳文作成に努めてください。
問2について
比較的受験生の出来は良かったですが、文章の読み違いによる誤訳が散見されました。一例として「ブラシは、バネ等の弾性部材を用いて、整流子に対し押し付けられるよう固定子ハウジングに取り付けられる。」ですが、「弾性部材」が「押し付ける」ことにより/「ブラシ」が「取り付けられる」のように解釈するのが正しく、それに沿った訳出が求められます。しかし、いくつかの答案は、下記の例のように、「弾性部材」がブラシを「取り付ける」と訳してしまっていました。原文に忠実な翻訳を心掛けてください。
問3について
全体的に、受験者の出来が良い問題でした。本問では、「複数」のメモリセルに「1本」のワード線が接続される、とか、単数と複数の関係を明確にすることが求められますが、それが不明確であったり、誤解されている答案が散見されました。その他、「〜できる」をmay(またはcan)などと訳すべきところ、これが訳出されないなど、細かい訳落ちが目立ちました。
問題(電気・電子工学)PDF形式597KB 標準解答(電気・電子工学)PDF形式33.0KB
1級/機械工学
第16回 知的財産翻訳検定 1級/機械工学 講評
今回の試験は、「文面をそのまま翻訳すると必ず誤訳になる」箇所が複数含まれているものでした。これは、何も引っかけ問題でも意地悪でもありません。このような文を正しく翻訳できるスキルは、特許翻訳の現場では必要不可欠です。なぜならば、多くの場合、技術文書や明細書を書いているのは言葉のプロではなく、技術のプロです。それに対して、特許翻訳者は言葉のプロであり、ふたつの言語のみならずふたつの文化や思考体系の橋渡し的存在です。仕上がった訳文の質が原文の質にまさっていなければならないのは当然のことです。
そのような問題に対して、字面通りの直訳、明らかな機械翻訳、原文に振り回された不自然な訳文などは、通常より少なかったように感じました。受験者のレベルが少しずつ上がって来ているようで勇気づけられました。
問1について
問1は、簡単な従来技術の説明です。口語的な表現が多く、技術翻訳をメインにされている方には厳しい内容だったかもしれませんが、不自然な表現も「完全な誤り」でない限りは大目に見て減点の対象から外しました。ただ、技術的なポイントとして、次の点を正しく理解せず翻訳された方は、減点の対象となりました。
・「温度特性表示手段」は、温度を数字で表示しない
・「温度特性表示手段」は、電池残量や使用可能時間を数字で表示しない
・従来技術は、色で温度をユーザに認識させることにより、温度による使用可能時間の違いを注意喚起するものである
そのため、「使用可能時間を表示して」を、displays the amount of timeの様に訳された方は、減点させていただきました。技術的に極めて単純な仕組みなので、和文の裏にある仕組みを読み取って訳してほしいところでした。また、ユーザが故障ではないかと不安になる対象が装置ではなく電池であると勘違いされた答案も目立ちました。
問2について
問2はノーミスの方も少なくありませんでした。表現の善し悪しは別として、技術的な内容を正確に訳せていた方がほとんどでした。ただ、この問題には「地雷」が仕込まれており、他をうまく訳せているのにもかかわらず、ついうっかり踏んでしまった方もいらっしゃいました。その「地雷」とは、「表面」という用語です。二カ所含まれていますが、一カ所目は「おもてめん」、二カ所目は「ひょうめん」と読まなければなりません。しかも一カ所目は「表面と裏面」となっているため、気をつければ間違えようがありません。ここをsurface and back faceと訳された方は、弁明の余地がありません。減点させていただきました。
現場のコツですが、surfaceは特に材質、質感、反応面積などに関わる表面全体に対して使い、個々の面についてはfaceを充てるとより解り易い訳文ができるかもしれません。
例:A die has a glossy white surface, with each of six faces bearing dimples representing numbers.
(サイコロの表面は白く光沢を帯びており、6つある面のそれぞれに数字を意味する窪みが形成されている。)
問3について
問3は、クレームの明確性を採点のポイントとしました。実は、クレームの明確性に対する考え方は、日米において少し相違があるからです。クレームの明確性が要求される第1の目的は、米国では、一般公衆(public)の視点において権利範囲を明確とするためとしているのに対し(MPEP2173[R-9])、日本では、審査対象の明確性が主眼とされているからです(審査基準:特許法第36条第6項第2号)。米国の特許訴訟においては、裁判官がクレーム解釈について説示を行いますが、侵害認定の主体が陪審員(陪審裁判の場合)であることを考えると、この相違は、訴訟実務の観点からも合理的であると考えられます。
したがいまして、クレームの日英翻訳では、この相違を意識して翻訳することが要請されることになります。具体的には、英文クレームでは、論理的階層性や修飾関係の分かりやすさがより重視されることになります。
本試験の原文では、折り畳み傘のリンク機構がやや論理的階層性に明確性を欠くクレームとして記載されています。1級の試験ですので、原文の論理的階層性の問題を解決して、明確な英文クレームを書けるかどうかが合否を分けました。具体的には、たとえば原文においてリンク機構が重複的に「備える」と表現している傘骨や受け骨の取り扱いや各要素の階層性(ツリー構造)を確認しました。原文がやや論理性を欠くにもかかわらず、3割近い方が英文で明確に表現していた点に受験生のレベルの高さを感じました。
今回の全体的な印象としては、惜しい方が目立った点が上げられます。問3のクレーム構造をクリアしたにもかかわらず、他の箇所で「当たらずとも遠からず」な訳で細かい減点を累積し、結局は合格ラインを割り込んでしまった方が数名おられました。惜しいの一言です。基本的な実力を十分に持ち合わせていながら不注意や勘違いによる減点が多かったので、ぜひまたチャレンジしていただきたいと思います。
問題(機械工学)PDF形式600KB 標準解答(機械工学)PDF形式51.9KB
1級/化 学
第16回 知的財産翻訳検定 1級/化 学 講評
<2020年7月>
「講評」および「標準解答」につきましては、掲載内容を再検討しております。
試験委員会等において協議の上、再度掲載させていただきますので
再掲載まで今しばらくお時間を頂戴できますと幸いです。
ご理解、ご協力のほど何卒よろしくお願い申し上げます。
問題(化学)PDF形式554KKB
1級/バイオ
第16回 知的財産翻訳検定 1級/バイオ 講評
問1について
これは、翻訳力をみるための出題でしたが、全体に出来がよくありませんでした。梅の訳は、ume、ume plum、Japanese plum、Japanese apricotなどが考えられますが、分類学的にはapricot に近縁で、plumではありませんので、plumと書くと完全な別物になってしまいます。「様々な形で利用される」の「形」は、formではありません。訳した後、自分の翻訳を、英語でしっかり考えてみましょう。
問2について
修飾詞のかかりをきちんと把握できるかどうかを見るための問題です。この点を押さえれば、特に難しくはないはずですので、うまく整理をしながら訳してください。ただ、定義の訳を間違うと、審査の過程で致命傷になりかねないため、注意深く訳すことを心がけてほしいと思います。
問3について
汎用技術についての英語力をみるための出題でした。遺伝子導入の「導入」は、transfectionではありません。transfectionは、一つの遺伝子導入方法に過ぎません。「(解剖における)分解する」はdissectです。分解せず、つぶしてしまうような訳語が多かったです。遺伝子組換え法は、バイオテクノロジーの中でも必須の方法ですから、きちんと勉強しておきましょう。
問4について
最近、バイオでも分析装置や方法に関する出願が増えていますので、方法のクレームについて出題しました。
何を調製して、何と何とを対比するかを把握できれば、間違いなく訳せる問題であったためか、全体のできは悪くありませんでした。
なお、方法のクレームの場合、Preamble部分にcomprising the step of〜と書いておいて、個別のステップの文頭は〜ingで書くことが多いように思います。この点については、〜ingで統一するのであれば、しっかりと統一するようにした方がよいと思います。
問題(バイオ)PDF形式590KB 標準解答(バイオ)PDF形式151KB
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2級
第16回NIPTA翻訳検定 2級 講評
全体講評
知的財産翻訳検定2級は、技術分野によらず弁えておくべき特許翻訳の基礎知識、技術理解力、明細書英文作成力が備わっているかどうかを評価するものです。殆どの解答が特許翻訳の勉強のあとをうかがわせるものでした。
大変優れた解答も多かったのですが、一方では内容的に今一歩の研鑽を要すると思われるものが半数程度ありました。問1(請求項の英訳)では、コロン、セミコロンの用法、構成要素の記述、いわゆるクレーム英語の体裁、などに難点がある解答が多かったのは残念です。たとえば、移行語の comprising の後にコロン(:)を置きながら、構成要素の区切りをセミコロン(;)でなくカマ(,)で行ったために全体が不明瞭になったり、構成要素の記述において分子構文で表現できるところを、全部関係代名詞を用いているために不明瞭になったり、などの例が少なくありませんでした。
また、技術内容をよく理解していないため、と思われる誤訳も少なからずありました。さらに、従属クレームの記載不適切なもの、例えば、…according to claim 1, wherein further comprising…などの解答が散見されたのは残念です。問2(大気環境中の浮遊微粒子についての記述)については、「浮遊」を”float”と訳した解答が大変多く目につきました。課題和文中にある用語指定”suspended particulate matter:SPM)をヒントにして、”suspend”を使って訳した例は大変少なかったという印象です。ただし、”float”も間違いではないので減点対象にはしておりません。
問3についてはほとんどの受験者が良い解答をなさいましたが、比較のミスが多くの例で見られたのは残念です。The information station 201 of the second embodiment is different from the first embodimentでは同次元比較になっているでしょうか。日本語では省略される表現を日本語の段階で補ってから英訳しないと誤訳になる例です。課題文は、明細書によく出てくる定型的なものですので、勉強をなさっている方には易しい問題であったと思われます。
問題(2級)PDF形式559KB 標準解答(2級)PDF形式32.4KB
3級
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