第19回知的財産翻訳検定<第9回英文和訳>試験 標準解答と講評

標準解答および講評の掲載にあたって

 当然のことながら翻訳の試験では「正解」が幾通りもあり得ます。
 また、採点者の好みによって評価が変わるようなことは厳に避けるべきです。このような観点から、採点は、主に、「これは誰が見てもまずい」という点についてその深刻度に応じて重み付けをした減点を行う方式で行っています。また、各ジャンルについてそれぞれ2名の採点者(氏名公表を差し控えます)が採点にあたり、両者の評価が著しく異なる場合は必要により第3者が加わって意見をすりあわせることにより、できるだけ公正な評価を行うことを心がけました。
 ここに掲載する「標準解答」は作問にあたった試験委員が中心になって作成したものです。模範解答という意味ではなく、あくまでも参考用に提示するものです。また、「講評」は、実際に採点評価にあたられた採点委員の方々のご指摘をもとに作成したものです。 今回の検定試験は、このように多くの先生方のご理解とご支援のもとに実施されました。この場をお借りして御礼申し上げます。
 ご意見などございましたら次回検定試験実施の際の参考とさせていただきますので、「標準解答に対する意見」という表題で検定事務局宛にemail<kentei(at)nipta.org>でお寄せください。※「(at)は通常のメールアドレスの「@」を意味しています。迷惑メール防止対策のため、このような表示をしておりますので、予めご了承ください。」


1級/知財法務実務


第19回 知的財産翻訳検定 1級/知財法務実務 講評


問1

 近時のアメリカ連邦巡回控訴裁判所(Court of Appeals for the Federal Circuit, CAFC)の判決から、二重特許(Double Patenting)に関する記述を取り上げました。アメリカ、日本をはじめ、一つの発明に一つの特許権が付与されるのは法上の原則ですが、アメリカでは判例法で(Judicially-created doctrine)一つの発明から当業者に自明な他の発明についても特許を受けることができません。上記判決は、この自明型二重特許の原則によって侵害事件にかかる特許を無効とした連邦地裁判決を支持したものです。自明型二重特許の原則は、同一出願人の特許出願についても適用されます。自明な範囲で異なる二つの発明については、その存続期間の終期が異なる場合、両者の重複部分について実質的に存続期間が延長されてしまうことがあるためです。問題文の判決で、特許法改正によって存続期間が最先の優先日から20年と規定されたものの、自明型二重特許の原則が有効であることは改正前と変わりがないと述べているのはこの件に関連しています。そのことを従来のCAFC判決も暗に判示していたのですが、本判決では明確に示したというのです。
 上記の内容は、やはり特許出願から審査を経て特許が付与されるまでのプロセスをいちおう把握していないとなかなか理解が難しいかと思います。特許制度の入門書としては多くの良書が世に出ていますから、これまで特許に関わる手続プロセスにあまりなじんでこなかったという方は相性の良い一冊を通読されると見通しが良くなると思います。例えば「分割」といった普通の用語も、特許の文脈では特別な手続を意味する用語となります。慣用語句を頭に入れておくと、翻訳の品質とともにスピードも向上するのであわせて試していただきたいと思います。
 なお、本文第2パラグラフの中ほどに、"...since the patent term is measured from the claimed priority date."とあり、TRIPS協定では「特許期間は出願日(filing date)から起算して20年を確保すべし」と規定されていますので、上記記述は一見協定に反しているように思われます。ただ、その前段に、the applicant chooses ... to claim different priority dates ... とあるため、CAFCは、出願人の判断で重複する権利範囲を有する複数の出願の存続期間始期が異なるという状況を表現しているのであろうと推察し、判決文の記載でありまた翻訳問題であることから、そのまま採録しました。この点、受験者の方には戸惑いを覚えた向きもあるかと思います。今回合否に影響するものではありませんでしたが、今後の出題に活かすようにいたします。

問2

 アメリカ特許法における図面の取扱いに関する解説を取り上げました。アメリカ特許法では発明の理解に必要な図面を提出することを求め、また発明の理解に不可欠ではなくとも理解を助けるものについては提出を求めることができる旨規定しています。(35USC113, 37CFR1.81)
 図面にはクレーム発明の特徴を全て記載する必要がありますが、これは必ずしも発明に含まれる公知の要素まで詳細に記載することを求めるものではありません(37CFR1.83)。したがって、製品の設計図レベルの内容は必要なく発明の理解に必要な範囲で模式化するなどして記載することができます。
 問1に関して述べたように、特許出願手続に関わる用語や慣用的な表現、法律用語について、まとめて習得しておくことをおすすめします。

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1級/電気・電子工学


第19回 知的財産翻訳検定 1級/電気・電子工学 講評


 殆どの答案は、一定のレベルには達しているものでした。しかし、一部に致命 的な誤訳があるか、又は致命的ではないが些細な訳落ち・誤訳・誤 記等が多数 ある、という答案が多く、結果、合格点に達 した答案は少数でした。 致命的な誤訳は、不注意によると思われたものもありますが、多くは英語以前 の基礎的な技術力の不足や、読解力の不足に起因しているも のと思われ ました。特許翻訳者のプロフェッショナルとして生計を立てようとする以上、日 頃から技術情報の吸収を怠らないことが重要です。  また、些細な訳落ち・誤訳等に関しても同様です。読解力が十分でないために 読み込みに時間を要し、見直しをする十分な時間がない、というパ ターンに 陥った結果、多数のケアレスミスに繋がっていると推測される答案が非常に多い 印象を受けました。日頃から良質な英文に触れることによ り、読解力を向上さ せ、それにより翻訳の正確さ、スピードの向上を図ることができると思います。
以下は、各問に関する講評です。

問1
 本問は、CM等でもお馴染みの、ロボット掃除機のクレームに関するもので す。今回の3問の中では、比較的簡単なものだ と思います。  この問題で多くの受験生が誤訳していたのが、クレーム3の「filters a gas excluding the particular smell so as not...」の部分です。これは particular smell 以外のガスを濾過してセンサに入らないようにする、という 意味ですが、particular smell を除いてセンサに入らないようにするようにす る、という逆の意味に訳したものが幾つかありました。これは致命的な誤訳と言 わざるを得ません。そのような意 味ではないことは、クレーム2を見れば分る はずです。仕上がった英文を見直して、一語一語誤訳や訳落ちがないか見ること に加え、全体として技 術的思想として成り立っているかも、しっかりと確認す るようにしてください。

問2
 本問は、明細書中の「従来技術」を和訳する問題であり、再生可能エネルギー 発電技術と並んで注目度が高まっている蓄電技術に関するもので す。本問も、 1つ1つの文章はそれほど難易度は高くなく、大きく意味を取り違えた答案は少 数でした。助動詞mayの訳し忘れや、度を超えた意 訳などにより、減点を重ねた 答案が散見されました。また、何となく知っている単語を、辞書で調べずに微妙 に違うニュアンスに訳出してしまって いる答案も多く見られました。
問3
 本問は、明細書中の「実施例」を和訳する問題であり、半導体メモリの一種で あるDRAMの構造に関するものです。  この問題でも、半導体の基礎的知識を習得している人と、そうでない人とで訳 出の正確さに差が出た感があります。基礎的知識が十分でない結 果、大きな誤 訳を犯してしまった答案も散見されました。 冒頭で、技術知識の習得をと申し 上げたのは、この意味からです。   なお、半導体分野では、単語をそのままカタカナとして訳出するのが良い場合 が多いことは、覚えておいて損は無いと思います。例えば、 「capatitor」 を 「コンデンサ」と訳した答案がありました。間違いとまでは言えませんが、実 際、半導体分野では「コンデンサ」という表現は殆ど使いません。そのまま 「キャパシタ」と訳すのが良いです。また、「storage capacitor」を「蓄電 キャパシタ」「保存キャパシタ」と訳した答案もありました。誤訳とまでは言え ないので減点はしていませんが、「ストレージ キャパシタ」と言うカタカナ表 記で訳出するのが良いと思います。

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1級/機械工学


第19回 知的財産翻訳検定 1級/機械工学 講評

 今回は通常より問題のワード数が多かった割には、全般的に出来が良かったという印象を受けました。致命的なミスが比較的少なく、平均点も高めでした。不合格となった方の中でも合格ラインに近い方の比率が高いという結果になりましたが、それでも合格者と比較すると格の違いを感じさせられました。
 全般的に目立ったのは、多くの受験者が同じ単純ミスや指示見落としをしている点でした。時間が非常に限られた試験ではありますが、その中においてもこのような点が守られた方とそうでなかった方の違いが合否を分けた要因かもしれません。

 問1は、図面を見て実施例を正確に理解しないと的確な翻訳ができないものとしました。図面を見て実施例を正確に理解しないと指定用語の全てを使用することができないからです。
 構造系のクレームの翻訳で図面を参照して翻訳する実務を日々行っている翻訳者には、難しくない問題です。ワード数が280ワードと少し多くなっていますが、繰り返し部分があるので実質的なワード数は200ワード程度です。繰り返し部分に表現や用語に揺れがないことも確認します。
 さらに、繰り返し部分には、その比較によって論理的に見つけることができる誤記が含まれており、誤記のままで正確に翻訳した方と修正して翻訳した方の双方を合格としました。ただし、コメント無しで修正した場合には、減点としました。コメント無しで修正した場合には、大きな事故の原因となるからです。正しい記載は、図面の拡大部分(○の中)で確認できるようになっています。
 原文に誤記があった場合には、できるだけ早く現地に確認する必要があります。翻訳にコメントがあると、弁理士は、翻訳者による処理の妥当性を検討して修正英文を現地に送って確認をとることができます。このような翻訳者と弁理士の役割分担と連係プレーが必要です。

 問2は、おそらくほとんどの受験者が聞いたことがない技術と思われますが、インターネットで簡単に技術内容を知ることができるので、特段難しい問題ではなかったはずです。ただ、表現で気になる点がいくつかありました。段落0006の"So-called"から始まるくだりには、この技術に関する英語での正式名称と一般名称が4つ羅列されています。日本語では一般的に使われている用語は「爆発圧接」と「爆着」の2つですが、ほとんどの方が、造語も含め強引に4つ出してきました。どの分野の翻訳においても同じことですが、「いわゆる」と言っておきながら、ターゲット言語に存在しない造語を並べるのは理にかなっていません。そもそも、厳密な逐語訳が求められているときをのぞいては、「いわゆる」や"So-called"という表現を翻訳すること自体、慎重に考えるべきです。その単語が本当にターゲット言語で通称として用いられているときにのみ訳して良い表現です。
 この問題を通して、「爆薬」と「火薬」の違い(爆発の速さが音速を超えるか否か)をはじめて知った方もいらっしゃるのではないでしょうか?これらを総じて「火薬」と呼ぶのは俗称であって、技術用語ではありません(現代の技術で実際に「火薬」が使われることはほとんどありません。この問題においてexplosive powderを「火薬」と訳された方に関しては、分野が従来技術において公知の技術を述べている内容なので軽微なミスとしましたが、仮にこれがクレームや実施例におけるサポート箇所でなされたならば、権利範囲に影響する重大なミスにもなりかねません。
 また、この問いの rather を「むしろ」と訳された方の多さには少々驚きました。ここではquiteやsomewhatのような意味合いですし、そう解釈しなければ訳文が不自然になってしまいます。訳し上がった文に不自然な表現が含まれていると感づいた場合は、まず誤訳を疑ってください。

 問3は分量こそあるものの、図面を見ながら翻訳すれば楽に訳し上がる問題です。原文の表現も図面も明快、テレビショッピングで実物の映像で見たことがある方も多いかもしれません。ここで減点になった方のほとんどは、英文をミラー翻訳しようとして訳文に無理が生じたためにミスをされた方です。情報は文と図の両方からはっきりしているので、無理に英文をたどらずに、「どうすればこの情報が和文読者に伝わるのか」の立場で整理し直しても全く支障ありません。むしろ、それこそが特許翻訳者に求められる能力の一つです。

 今回は合格に至らなかったものの、合格ラインに比較的近い方が数名おられました。また是非チャレンジしていただければと思います。

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1級/化 学

第19回 知的財産翻訳検定 1級/化 学  講評

問1
 特許請求の範囲としては素直な文章でしたし、最初の問題ですので、あまり間違いは見られませんでした。特許請求の範囲は、権利付与後の特許権の内容を確定するものですので一字一句が重要です。誤訳や訳抜けは致命的な結果を生じることが多くなります。なじみのない技術分野でも、ネット検索する等して適切な専門用語を選択してください。「以上」と「未満」は、きちんと区別してください。どんな形状・組織の材料に、どのような作業を行った結果、何か得られるかをイメージすると、正確で理解しやすい文章を作る助けになります。特許請求の範囲ではthe やsaidがある場合、くどくならない限り「前記」、「該」等を付けることが好ましいです。一般に「該」は直前に記載されたものを指すと言われていますが、最近ではあまり区別されていないようです。

問2
 比較的単純な構造の触媒に関する文章です。やはり「カーバイド」等、適切な専門用語の選択は重要です。また、触媒は、通常、活性炭等の担体上に「担持」されて取り扱われます。handling はduring〜as well as during〜の二カ所にかかっていることに気が付くとうまく訳せます。campaignは、冶金分野では(高炉の)寿命や操作持続期間ですが、この場合は、本来の意味(運動・活動等)から運転や持続操作等と理解すると良いようです。"can"は「〜の可能性がある」意味ですので、特許請求範囲の解釈にあたって、重要な影響がある場合があります。訳を省略しないようにしましょう。

問3
 問3は、インスタントコーヒーの組成物に関する問題です。身近な分野ですので、イメージしやすかったのではないでしょうか。freeze dryの訳は、統一がとれていれば「フリーズドライ」でも「凍結乾燥」でもかまいません。動詞として用いる場合、「フリーズドライする」ではややこなれないため「フリーズドライ加工する」と工夫された訳もありました。
 本問でミスが多く見られたのは、第3文です。非常に長い文ですので、2文に分けた方が読みやすくなります。この文では、may…butの構文と関係代名詞の係り受けを正確に理解したいところです。may…butの構文は、「従来の装置を用いてもよいが、従来とは異なる条件で行い、その条件により本発明に係る生成物が得られる」と理解し、mayはbut以下に係っていないと見るべきでしょう。従来の装置を用いるなら、従来と異なる条件でないと特有の効果は得られないはずだからです。このように、原文の係り受けが構文から不明確な場合は、文脈から考えて最も妥当な係り先を見つけるのが有効です。また、result inという動詞から複数形の名詞に係っていることがわかりますので、単複で係り先を見分けるのも一つの手です。  
コーヒー粒子の構造の説明では、単語の意味を取り違えた訳が見られました。例えば、elongatedは「細長い」、generallyは「略」の意味です。和英辞書で拾った訳語をそのまま使用すると誤訳につながりますので、簡単な訳語でも英英辞書や用例などで意味を確認することが必要です。

問4
 問4は、整形外科用インプラント材料に関する問題です。比較的難しい技術内容でしたので、字面で訳すと内容の理解が不十分であることが訳文に出やすい問題でした。限られた時間でしたが、整形外科用インプラントについて少しでも調べることができれば、原文の理解もスムーズになったかと思います。例えば、「整形外科 インプラント Mg合金」でネット検索すれば、関連技術の論文や特許明細書などが見つかります。
 第4文では、with以下をどのように訳すか悩まれた方も多かったのではないでしょうか。このwithは、いわゆる付帯状況のwithであり、最適な組成がMg-1.0Ca-0.5Srであったことを補足的に説明していますので、そのニュアンスを訳文に出したいところです。
 第5文のpossiblyは、increasesでなくdue to以下に係っていますので、「より多量の二次相の形成によるものと考えられる」という意味になります。係り受けの読み違えは誰しもありがちなミスですが、文意を大きく左右しますので注意が必要です。
 この英文では、amountの修飾語としてlarge, smallでなくhigh, lowが用いられています。日本語に訳す場合は、原文に流されず、「高い」「低い」でなく「多い」「少ない」と訳した方が自然でしょう。

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1級/バイオテクノロジー

第19回 知的財産翻訳検定 1級/バイオテクノロジー  講評


 全体に英語として極端に難解なものはなかったと思いますが、いかに内容を正確に理解し、それをわかりやすく日本語にするかが問われています。以下、代表的な部分を取り上げて解説しますが、そこだけに当てはまるわけではなく、他の部分にも当てはまるものがありますので、その点に注意してください。

 第1問では、全体によくできていましたが、〜so as to・・・の訳を「・・・すべく〜する」や「・・・するために、〜する」として、・・・の部分を〜することの目的・意図のように訳すほうが望ましいと言えます。特に、クレームの場合には、「〜して・・・する」と前から訳すと、「・・・する」工程自体についても構成要件として要求され、権利範囲が限定的になる恐れや、「・・・する」工程について明細書のサポートがないとして拒絶理由を受ける恐れなどがあるためです。

 第2問では、”Sleep has been implicated”を、「・・・と関わっている」などと現在形で訳していた人がいましたが、ここは現在完了になっているので、「・・・と関わっているとされてきた」「・・・と結びつけられてきた」という意味を持ちます。”enhances the retention of hippocampus-dependent declarative memories”の部分で、「海馬依存性の宣言的記憶の保持が亢進される」などの訳がありましたが、日本語として「保持が亢進される」とは言いません。日本語としての共起表現(コロケーション)に注意しましょう。

 第3問では、”occurring naturally”を「天然に生じる」と訳していた人がいますが、あとに、”as in a purified restriction digest(精製された制限酵素消化物の中でのように)”と続くのですから、「天然に」生じている訳ではありません。これは、後に続く”produced synthetically”と対比させて述べていて、”without artificial aid(非人工的に、非合成的に)”という意味です。”nucleotides and an inducing agent such as a DNA polymerase”を「ヌクレオチドおよびDNAポリメラーゼなどのinducing agent」と訳していた人がいますが、これでは、ヌクレオチドとDNAポリメラーゼの両方が、inducing agentになってしまいます。英語では、「ヌクレオチド」と「DNAポリメラーゼなどのinducing agent」が並列しているのですから、正しく内容を表すために、「DNAポリメラーゼなどのinducing agentとヌクレオチド」などと、英語とは逆の順で訳すことを覚えましょう。また、”induce”を「誘導」と訳している人が多かったのですが、ここでは反応を「誘導」している訳ではないので、正しく内容を理解した上で訳すことをこころがけてください。”exact lengths of the primers will depend on many factors”の中の”exact”は、「正確な長さ」という意味ではありません。なぜなら、「正確な」というのは「正確な長さは2.0センチです」などのような事実問題であって、他のどんなものにもdependしないからです。”exact”には、”fully and completely correct or accurate(正確な)”という意味と”very careful and accurate(厳密な)”という意味がありますが、ここでは、後者の意味になります。

 問4では、replicatedが訳しづらかったようです。これは、15匹のシロアリからなる群が複数あるという意味であり、後半部がそのヒントになると思います。本問では、weightの単語があまり一般的な使い方をされていないため、混乱した方もいらっしゃると思います。本問では、統計学でいうところの重みづけではなく、シロアリの重さを量ることです。これも、後半部を含め、どのような実験操作を行っているかを考えれば理解できるものと思います。

 全体に、英和辞典に載っている訳をそのまま当てはめていた人がいましたが、それでは翻訳になりません。日本語として意味が通じる必要性があります。ちなみに、英和辞典に載っているのは単語の「意味」ではなく、特定の文脈に当てはまる「訳例」にすぎません。単語の「意味」を知りたいときは、ネイティブの使用する英英辞典を引きましょう。

問題(バイオテクノロジー)PDF形式83.3KB   

標準解答(バイオテクノロジー)PDF形式143KB



2級

第19回 知的財産翻訳検定 2級 講評


 2級の出題意図は、技術分野に関係なく、「特許明細書の英文和訳を行うにあたって必要となる基礎的な知識や翻訳力が備わっているかどうか」を評価することです。
 全解答に目を通して感じられたことは、ワード単位、フレーズ単位で不適切な訳が多かったことです。
 問1では、” intention”、"through molding or fusion "、non-releasably”、”complementary means”, “without top piece” など、問2では、”traversed”、”blasted into”、”the volume occupied by”、”internal workings” などの語句が正しく訳されていない解答が多く目につきました。
 特に、問2の、”cooler parts of the engine”を、「エンジンのクーラー部分」と訳した解答がかなりありました。前後のコンテクストから、「より低温の部分」の意味であることは明らかです。高温→融解、低温→再凝固、といった簡単な理屈がイメージできないと、特許の翻訳を仕事とすることは難しいです。
 問3は、請求項の翻訳における基本的な考えやルールを理解しているかどうかが問われる内容です。本課題分の場合、重要なのは、構成要素が正しく認識されているか?数値で示される成分範囲が正確に訳されているかどうか?移行語(comprisingなど)が正しく訳されているかどうか?と言った点です。 移行語については、請求項1の”comprising”は、open language ですから、「からなる」ではなく、「含む」、「包含する」など、記載された以外の構成要素をも取り込み得る表現とすべきです。
請求項2は、方法クレームですが、「…することと、…することと、…することとを含む…方法」のように、 ”comprising”の意を活かして訳すことが必要です。「..すること」を、「…する工程」、「…する段階」などと言い換えることも「可」ですが、最近の米国製英語明細書のクレームでは、ひところ推奨された”step”という語を用いていないものも多くなってきており、そのような場合には強いて「工程」、「段階」などの日本語を充てる必要はありません。 なお、請求項2における “base metals”は、電気化学における「卑金属」という意味ではなく、互いに接合されるべき「母材金属」のような意味です。それに近い表現であれば減点対象とはしておりません。

その他、以下についても参考にしてください。
1.問1:「modifications that are apparent to the person skilled in the art and equivalents thereof」の部分の誤解が多く見られました。当業者にとって明白な改善およびその等価物でしょう。
2.「exploded downward view」は「下方方向の分解組み立て図」の意味がでていればよしとします。分解俯瞰図などもあります。
3.「molding or fusion」は「成型または融合(融着するという意味がでていればよしとします)」であり、moldを意味を考えずに鋳型とした例が多く技術的理解を深めないといけません。鋳型は、金属を溶かした「湯」を流し込む砂、土などで出来た鋳造法で用いる型です。ここでの意味は成型。moldは名詞の場合には、「型」であり、鋳型は不適切です。
4.couple結合の訳が不適当な例が多く見られました。joint、connect、coupleなどの機械的な基本用語の意味をしっかり勉強してください。
5.問2:generallyの訳が不適当な例が多くありました。基本的な意味は「全体として」であり「一般的に」はむしろ派生訳です。
6.radiofrequency (RF)は、highという意味はありません。無線周波(数)でしょう。
7.volumeという基本的な語の理解も足りません。容積はある容器の体積のことであり、容器でないもののvolumeは体積です。
8.abrasiveは研磨を行うときであれば研磨性でよいものの、磨り減って欲しくないものが磨り減る時には「摩耗」という程度の技術知識は常識でしょう。
9.As used hereinなどの特許特有な表現はまとめてしっかり勉強しておいてください。
10.問3:請求項でcomprisingを誤訳するのは致命的誤訳です。open/closedの基本的な考え方は最重要事項でしょう。consists essentially ofの訳も明確に理解してください。
11.請求項2において、forming、placing、heatingの3つの構成要件の工程があるところを誤解している例が少なからず見られました。
12.請求項で元素記号をそのまま残してよいという指定をしましたが、半角英数文字をそのままにしてよいわけではありません。英数文字は全角が基本です。
13.and、orは法律日本語で定訳が決まっており、andは「および、ならびに」、orは「または、もしくは」のみです。「や」は日常語であり、特許明細書では好ましくありません。また構成要件の列挙には「と、と、と」が基本です。
「AやB」「AとB」の表現が多く見られます。特許は法律文書ですので注意が必要です。

問題(2級)PDF形式345KB  標準解答(2級)PDF形式43KB





3級

第19回 知的財産翻訳検定 3級 講評

 解答例と解説をご欄下さい。

問題(3級)PDF形式172KB  解答と解説(3級)PDF形式190KB

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特定非営利活動法人(NPO)日本知的財産翻訳協会 事務局
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