● 第37回知的財産翻訳検定試験 参考解答訳と講評
参考解答訳および講評の掲載にあたって |
当然のことながら翻訳の試験では「正解」が幾通りもあり得ます。 また、採点者の好みによって評価が変わるようなことは厳に避けるべきです。このような観点から、採点は、主に、「これは誰が見ても間違い」という点についてその深刻度に応じて重み付けをした減点を行う方式で行っています。また、各ジャンルについてそれぞれ2名の採点者が採点にあたり、両者の評価が著しく異なる場合は必要により第3者が加わって意見をすりあわせることにより、できるだけ公正な評価を行うことを心がけました。 ここに掲載する「参考解答訳」は作問にあたった試験委員が中心になって作成したものです。模範解答という意味ではなく、あくまでも参考用に提示するものです。また、「講評」は、実際に採点評価にあたられた採点委員の方々のご指摘をもとに作成したものです。 今回の検定試験は、このように多くの先生方のご理解とご支援のもとに実施されました。この場をお借りして御礼申し上げます。 ご意見などございましたら今後の検定試験実施の際の参考とさせていただきますので、「参考解答訳に対する意見」という表題で検定事務局宛にemail<kentei(at)nipta.org>でお寄せください。(※「(at)は通常のメールアドレスの「@」を意味しています。迷惑メール防止対策のため、このような表示をしておりますので、予めご了承ください。) ※採点方法等につきましては、知的財産翻訳検定試験 採点要領 をご確認ください。 |
1級/知財法務実務
1級/電気・電子工学 1級/機械工学 問題(機械工学)PDF形式
参考解答訳(機械工学)PDF形式 1級/化 学 1級/バイオテクノロジー |
2級
第37回 知的財産翻訳検定 2級 講評 |
【問1について】 課題英文は比較的平易なものでしたがいざ翻訳するとなると結構タフな題材でした。そのせいか、過度の直訳で日本語として読みにくい訳や過度の意訳で原文の意味から離れた訳が目につきました。機械翻訳に引きずられたのではないかと思わせる誤訳や不適切訳も多くありました。”Currently, virtually all transport of natural gas across bodies of water is carried out by either subsea pipelines or LNG ships.”の”virtually”が、「仮想的に」と訳されたり、“Hydrogen presents some unique challenges for large-scale shipment. Hydrogen is extremely light and requires either liquefaction or compression to increase its density for shipping.”の” presents some unique challenges”が「挑戦が必要である」と訳されたり、”to increase its density”を”compression”のみにかけた訳など、誤訳や今一歩の推敲が必要と認められる答案が目立ちました。原文のecosystemは、ビジネス用語で複数の事業体がそれぞれの役を担ってひとつの大きなビジネスを完結する、というような意味です。「エコロジー」(生態学)とは直接は関係ありません。 【問2について】 課題文は問1同様あまり複雑なものではありませんでしたが、日本語としてこなれていない訳が多い印象でした。また、”comprise”を「からなる。」と訳した答案が思ったよりも多かったです。特許翻訳実務上は、やはり、「含む」とか「有する」など、原文のopen language のニュアンスを伝える訳が望ましいです。:"silicone"は、シリコーンと訳すべきです(「シリコン」はケイ素、「シリコーン」はケイ素を含む化合物で、明確に使い分ける必要があります)。" The tackiness of the coated upper surface 4 is approximately 50% greater than the tackiness of the coated lower surface 5, as determined by the loop tack test"の”as”が正しく訳されていない答案がほとんどでした。例えば、「粘着性が、あとで述べるループタックテストで決定されるように」などです。ここでの"as"は、「のように」の意味ではなく、直前に述べられている粘着性がどういうモノなのかを示す表現です。原文の趣旨は「後述するループタックテストで測定される粘着性が~である。」というものです。 【問3について】 構成要素の抜き出しや記述がうまくできていない解答が多い印象でした。特に”yawing system”や”cooling system”の記述は入れ子構造になっているので日本語の整理が難しかったと思われます。単語レベルではほとんど全部の解答で”vertical"(鉛直)が、「垂直」と訳されていました。“vertical”(鉛直=重力の作用方向)と(perpendicular(垂直)とは意味が違いますので意識的な使い分けが必要です。”Stationary”(静止)と”fix”(固定)との違いについても吟味されていない解答が非常に多かった印象です。技術内容的には ” a power transmission system for transmitting power from the main shaft to a generator;”の” power transmission system”を,「送電システム」と訳した解答が結構多かったです。「風力で回転するローターから発電機へ動力を伝えて発電機を駆動して発電を行うという風力発電の原理は小学生でも理解していることです。「発電機へ電力を送るってどういうことなの?」という自問自答が欲しかったところです。 |
3級
中国語
ドイツ語
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第37回 知的財産翻訳検定 3級 講評
解答と解説をご覧ください。
第37回 知的財産翻訳検定 中国語 講評
今回は14名が受験し、6名が合格しました。また、合格までには至りませんでしたが、多くの受験者があと一歩で合格という成績でした。以下、各問において頻度の高かった誤訳や不適切な訳について簡単に解説しますので、ご参考になれば幸いです。なお、そのほかのご不明な点については、≪参考解答≫をご参照ください。
【問1】
問1は、翻訳力および特許文書の書き方、具体的には【特許請求の範囲】の書き方の両方を考査する問題です。問1で誤訳が多かった箇所は第4段落、つまり「送信モジュール」の詳細説明の部分でした。具体的には、「判断」及び「選択」の動作の主語を間違えているケースが多かったです。このような間違いは、請求項の技術内容を正確に理解していないからだと推察します。請求項1の構成は3層になっており、電気料金支払装置が第1層をなし、電気料金支払装置に含まれる3つのモジュール(生成モジュール、イントラクションモジュール、送信モジュール)が第2層、そして各モジュールにより動作を制御される送電網サーバ、クライアント端末等が第3層をなすというように理解することができます。例えば、第2段落で「ユーザの料金支払単位に応じて対応する初期インターフェースを生成する」のは「送電網サーバ」であり、「送電網サーバ」に上記生成動作をさせるのが「生成モジュール」です。従って、第2段落の“生成模块,用于使电网服务器根据用户的缴费单位生成相对应的初始界面”は「送電網サーバにユーザの支払い単位に基づき、対応する初期インターフェースを生成させる生成モジュール」と訳すことができます。このように請求項1を3層構造で理解すれば、第4段落での「判断」、「選択」、「送信」の主体がそれぞれ「送信モジュール」、「ユーザ」、「送電網サーバ」であると理解することができます。そのため、第4段落は「前記ユーザが前記クライアント端末によって1つの前記電気料金表示テンプレートを選択し、対応するプリペイド電気料金情報を入力したと判断した場合、前記送電網サーバに前記プリペイド電力料金情報に基づき、対応する支払い情報を生成し、前記銀行サーバに送信させる送信モジュール」と訳すことができます。なお、問1で“用户”と“客户端”の意味を混同した受験者も多くみられました。正しくは、“用户”とは電気料金を支払う立場のもの、例えば人間を指し、「ユーザ」と訳されます。一方、“客户端”とはネットワークを構成する装置などを指し、「クライアント」と訳されます。すなわち、コンピューターを使ったサービスで、サービスを提供する側を「サーバ」と呼び、サーバから提供されるサービスを受け取るコンピューターを「クライアント」と呼びます。
【問2】
問2は、明細書の【背景技術】の部分を翻訳する問題で、リチウム電池の正極材料に関する内容です。問2においては、特に難しいことがなく、分かりやすい内容でしたので、技術内容の誤訳や不適切な訳がほとんどなく、全員良く翻訳できました。
【問3】
問3は、明細書の【発明を実施するための形態】の部分を翻訳する問題で、安全弁の弁位置測定装置に関する内容です。問3においては、ほとんどの受験者が技術内容の誤訳や不適切な訳がなく、良く翻訳できていますが、係り関係と用語の誤訳または不適切な訳が複数見られました。具体的には、“根据本发明的一种安全阀阀位测量装置”を「本発明の安全弁の弁位置測定装置によれば」に訳した受験者がいますが、ここでの“根据(による)”の係り関係の範囲は“本发明”までですので、「本発明による安全弁の弁位置測定装置は」のように訳すのが正しいです。係り関係の誤訳は特許翻訳や技術翻訳においてよく見られるミスであり、場合によっては致命的な技術内容の誤訳になりますので、翻訳の際には間違いがないように気を付けましょう。また、“穿设于”を「に取り付けられ」や「に設置され」に訳した受験者がいますが、“穿设”は“贯穿(貫通)”と“设置(設置)”の二つの言葉を組み合わせた用語であり、「に取り付けられ」や「に設置され」には“贯穿(貫通)”の意味が含まれていませんので、不適切な訳になります。適切な訳としては「を貫通するように設置(または配置)され」や「に貫設され」などが挙げられますが、「貫通」と「設置」の両方の意味が含まれることが大事です。“穿设”は機械分野の特許文献において出現頻度が非常に高い用語ですので、今後は間違いがないように覚えておきましょう。また、“竖直方向”を「垂直方向」に訳した受験者がいますが、“竖直”の適切な訳語は「鉛直」であり、「垂直」とは意味が異なりますので、気を付けましょう。
第37回 知的財産翻訳検定 ドイツ語 講評
今回は3名の方が受験されました。皆さん全体的には大変良くできていて素晴らしい翻訳をしていましたが、所々ミスが認められ、とりわけ気になるのは文単位での訳モレや、特許請求の範囲における書式や約束事が守られていないといった基本的なミスが散見されました。これらが改善されるだけで一気に合格に近づくと思料しますので、是非とも翻訳作業後の見直し作業のスキルや、明細書の書き方等の基礎知識を身につけてください。
【問1】
車両のウインドシールドに関する問題です。ウインドシールドとは、Windschutzscheibeという言葉が示すように、文字通り「風防板」です。
一般にウィンドゥガラス(window glass窓ガラス)とも呼ばれますが、「ウインドシールド」(windshield)の「ウインド」は「窓」ではなく「風」ですのでご注意ください。
一般に、降雨時などにウインドシールドの濡れ(Benetzung)を検知して、自動的にワイパシステムを作動させるシステムは、赤外線の反射を利用しています。しかし、赤外線の反射に基づいて濡れを検知するシステムは、太陽光などの外部光線による外乱の影響を受けて誤作動を招くおそれがあります。
特に最近の高度に自動化された(hochautomatisiert.)走行を実現するためには、ウインドシールドに重要な機能が加えられます。
受験者全員が「automatisiert. Fahren」を「自動運転」と訳していました。これは単なる「自動運転」(automatisch. Fahren)と云っているのではなく、本来は人間が行っていたものを「自動化」したものだから敢えて「automatisiert. Fahren」と表現しているのです。ですから、厳密にはautomatisiert.は「自動化された」と訳すべきでしょう。
「den dahinter angebrachten zusätzlichen Kamerasystemen」のdahinter(「その背後に」)ですが、技術内容を正しく理解していれば、「その」が「ウインドシールド」を指すことは明らかなはずですので、ここは「その背後に・・・」ではなく「ウインドシールドの背後に取り付けられた付加的なカメラシステム」と訳したいところです。
本発明による方法では、ウインドシールドの状態に関する情報を検知するために、少なくとも1つの第1のセンサ(マイクロフォン)を用いて、ウインドシールドの振動を表す第1のデータが検出され、かつ少なくとも1つの光学的なセンサ(カメラ)を用いて画像データが検出され、次いで、第1のデータと第1の画像データとは、ウインドシールドに関する情報を検知するために評価されます。
問1の問題文には、
■「erkennen」(認識する)
■「bestimmen」(決める)
■「erfassen」(把握する)
■「aufnehmen」(受け取る)
■「detektieren」(検出する)
といった動詞が登場しますが、これらの動詞はすべて「検出する」「検知する」「測定する」といった意味で使われています。DeepLの翻訳だと、ここの「bestimmen」は「決定する」と訳されているようですが、これだとbeschließenとかentscheidenの意味とvertauschenされるおそれがありますので気をつけましょう。
「Der erste bzw. die ersten Sensoren sind dazu eingerichtet Schwingungen, insbesondere mechanische Schwingungen, der Windschutzscheibe aufzunehmen.」という文の「dazu eingerichtet sein」ですが、DeepLの翻訳だと「~するために設置される」という訳が付けられているようです。einrichtenは、「ある目的に合うように整える」という意味なので、この場合は「設置される」ではなく「設定されている」とか「調整されている」が適訳です。
「mit mindestens einem ersten Sensor」や「mit mindestens einem optischen Sensor」を「少なくとも1つのセンサで」とか「少なくとも1つの光学センサで」というように「mit」を「で」と訳している人がいますが、「駅で」の「で」とvertauschenされるおそれがあるので、手段を意味する「mit」や「durch」は「~を用いて」「~によって」というように「手段」であることが明確になるように訳す癖を付けましょう。この使い方は機械翻訳のプリエディット作業にも通じます。
問1の問題文は比較的長いですが、ドイツ語文自体はそれほど難解ではないので、比較的スムーズに訳し降りられるのではないでしょうか。論理の流れを乱すことなく、つまり原文の流れに沿って、そのまま訳し降りていくことを心がけ、そのためには日本語文を上手く工夫してみましょう。
【問2】
「Spreizdübel」は、日本では「拡張栓」とか「拡張プラグ」などと呼ばれています。築壁に孔を開けて拡張栓を挿入し、挿入された拡張栓にねじをねじ込むと、壁の中で拡張栓の先端が拡開して壁孔のアンダカット部に背後から係合するので、拡張栓はアンカー式に築壁内にしっかりと固定され、引っ張っても抜けなくなります。
拡張栓は、たとえば家庭内で壁にフック等を取り付ける際にも使われます。
本実施形態の拡張栓は、2つのスリット2によって4つの拡開セグメント3が形成されているので、いわゆる「4方向拡張式」のプラスチック製の拡張栓です。
機械的な動作経過を述べている文章なので、基本的には原文のまま素直に訳し降りていけばOKですが、少し工夫が必要と思われる文章もあります;
「Die Aussenkontur des Spreizdübels ist in Anpassung an das mit einer V-förmigen Hinterschneidung 6 versehene Bohrloch 7 mit einem zylindrischen Abschnitt versehen, an den sich eine konische Erweiterung 8 anschliesst.」
上記ドイツ語文を原文通りに訳すと;
「拡張栓の外側輪郭は、V字形のアンダカット部6を備えた穿孔7に合わせて、円筒状の区分を備えており、この円筒状の区分には円錐状の拡張部8が続いている。」
となります。穿孔7は図面から判るように、穿孔入口から見て大部分は円筒状に形成されていますが、端部にV字形のアンダカット部6を備えています。このように円筒状の部分とV字形のアンダカット部とから成る穿孔横断面全体の輪郭に合わせて、拡張栓の外側輪郭も、対応して形成されています。すなわち、拡張栓は円筒状の区分だけでなく、穿孔7のV字形のアンダカット部6に対応する円錐状の拡張部8をも備えており、この円錐状の拡張部8は、図2および図3から判るように拡開後に穿孔7のV字形のアンダカット部6にぴたりと係合します。
このような構成を考えると、最初の翻訳のように「拡張栓の外側輪郭は、V字形のアンダカット部6を備えた穿孔7に合わせて、円筒状の区分を備えており、この円筒状の区分には円錐状の拡張部8が続いている。」と訳すよりも「拡張栓の外側輪郭は、V字形のアンダカット部6を備えた穿孔7に合わせて、円筒状の区分と、この円筒状の区分に続いた円錐状の拡張部8とを備えている。」と訳したほうがbesserでしょう。
「bei einem bündigen Abschluss des hinteren Dübelendes mit der Wandoberfläche」(「拡張栓の後端部が壁表面と面一に整合すると」)は、翻訳が難しい個所ですが、皆さん正確に翻訳できていたので素晴らしかったです。
「Holzschraubengewinde」は「木ねじのねじ山」という意味です。「木製のねじ山」と訳している人がいましたが、そもそも「木ねじ」とは「木製のねじ」という意味ではありません。木材用に使われる、粗い断面のねじ山を備えたねじのことで、ねじ自体は一般にステンレス等の金属から製造されています。これもちょっと調べればすぐに分かる基礎的な知識です。図3には、六角頭(ヘッド11)を備えた、粗いねじ山を有するねじが図示されています。
問2は、純機械的な内容ですので、運動や動作の順序および論理の展開が崩れないように原文の流れに沿って訳し降りていくことがポイントです。
【問3】
特許請求の範囲に関する問題です。まずは特許翻訳者として、特許請求の範囲の基本的な書き方や約束事をきちんと認識していることが求められます。
ドイツの特許請求の範囲はジェプソン型で書かれているので、「dadurch gekennzeichnet,」を挟んで、先行技術と共有する構成を含む前提部(Oberbegriff)と、本願の新規な特徴を含む特徴部とから成る二段構えの構造となっています。したがって、独立項の書き方は「・・・○○~において(前提部)、~を特徴とする(特徴部)○○。」というような感じになります。これができていた受験者は1名しかいませんでした。
これも基本ですが、クレーム中は前出の名詞(基本的に定冠詞付のもの)には「前記」を付けます。場合によっては「前記」だらけになって読みにくくなる場合もありますが、原則としては全てに「前記」を付けるものだと思ってください。
それから部材名などの用語は必ず統一してください。たとえば同じGetriebeを指す訳語を「トランスミッション」と訳したり「変速機」と訳したりすることは御法度です。
「Antriebseinheit für ein Kraftfahrzeug」の「Antriebseinheit」ですが、受験者全員が「駆動装置」と訳していました。たしかにDeepLの翻訳だと「駆動装置」となります。間違いとは云いませんが、「Einheit」は本来は「ユニット」の意味なので、問題文にも書いたように「自動車用の駆動ユニット」という日本語訳が適訳であると思います。
請求項1では、主要構成要素として「変速機(12)」と「電気モータ(14)」と「出力電子装置(16)」と「内燃機関(20)」と「内燃機関クラッチ(18)」とが挙げられています。動力装置として「電気モータ」と「内燃機関」の2つが設けられていることに注意です。いわゆるハイブリッド式の駆動ユニットであると考えられます。
このうち、電気モータは変速機(12)を駆動するためのものですが、さて内燃機関(20)は一体なにをするためのものでしょうか?
クレームから判るのは、この内燃機関(20)は、内燃機関クラッチ(18)を介して変速機(12)に接続可能である点です。そして特徴部に記載されているように、この内燃機関クラッチ(18)が締結されていると、内燃機関(20)は変速機(12)を介して電気モータ(14)を駆動できるようになっています。これにより、請求項2に記載されているように、このとき電気モータ(14)はジェネレータ(発電機)として作動します。つまりこの電気モータは、いわゆる「モータ・ジェネレータ」として働くわけです。
このへんの仕組みを把握できると、翻訳し易くなります。
「Verbrennungsmotor」はDeepLでは「内燃エンジン」と訳していますが、やはり「内燃機関」のほうが良いでしょう。「Motorkupplung」の「Motor」は直前の「Verbrennungsmotor」(内燃機関)を指します。内容をきちんと理解していない人だと安易に「モータクラッチ」と誤訳してしまうところですが、さすがにDeepLはきちんと「エンジンクラッチ」と訳しているようです。
毎回申し上げていますが、クレームの翻訳は一歩間違えると権利範囲を損ねる致命傷になるおそれがあります。当たり前ですが、特許翻訳者であれば、十分に技術内容の裏付けを取った上で、慎重の上にも慎重に訳すよう心がけましょう。
★最後に;
本独文和訳試験は、英文和訳の二級に相当するので、細かい点についてはあまり厳しく採点していません。むしろこの段階で必要なのは、どれくらい技術内容を理解しているのかにあります。
毎回出題傾向は同じであると思いますが、改めてご説明しておくと、
問1の問題文には「従来技術→課題→解決手段→効果」という一連の流れが記載されています。従来技術の欠点は何か、それによってどのような不都合が生じるのか、本発明の課題は何か、それを解決するためにどのような構成/方法にしたのか、本発明の効果は何か、といった点がしっかりと把握できているかを見ます。
問2については実施形態の理解度を問う問題となっており、図面を参照しながらどの程度、対象の構造や原理、部材の動きを理解できているのかを見ます。そのためには、基本的な技術知識と、物の動きを表現するためのドイツ語特有の前綴りや前置詞の働きを身につけている必要があります。
問3については特許明細書における最重要個所である特許請求の範囲が出題されています。特許請求の範囲における基本的な約束事や書式が守られているか、権利範囲がきちんと日本語でも体現されているかを見ています。
語学出身者ですと、訳語や細かい表現等の語学面に重点を置きがちですが、この段階ではそこまで精密な訳語は求めていません。多少不適格な表現であっても意味内容を理解していることが分かれば問題ありません。むしろこの段階で求められるのは、基本的な技術知識やその理解力、そして何よりも明細書におけるストーリーの理解力でしょうか。長い目で見ると、最初の段階でしっかりと基礎を身につけておくことが特許翻訳者として大切な要件であると思います。
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<問い合わせ先>
特定非営利活動法人(NPO)日本知的財産翻訳協会 事務局
〒163-0219 東京都新宿区西新宿2-6-1 新宿住友ビル19階
TEL 03-5909-1188
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