第6回知的財産翻訳検定<第4回和文英訳>試験 標準解答と講評

標準解答および講評の掲載にあたって

 当然のことながら和文英訳の試験では「正解」が幾通りもあり得ます。
 また、採点者の好みによって評価が変わるようなことは厳に避けるべきです。このような観点から、採点は、主に、「これは誰が見てもまずい」という点についてその深刻度に応じて重み付けをした減点を行う方式で行っています。また、選択課題の各ジャンルについてそれぞれ2名の採点者(氏名公表を差し控えます)が採点にあたり、両者の評価が著しく異なる場合は必要により第3者が加わって意見をすりあわせることにより、できるだけ公正な評価を行うことを心がけました。
 ここに掲載する「標準解答」は作問にあたった試験委員が中心になって作成したものです。模範解答という意味ではなく、あくまでも参考用に提示するものです。また、「講評」は、実際に採点評価にあたられた採点委員の方々のご指摘をもとに作成したものです。 今回の検定試験は、このように多くの先生方のご理解とご支援のもとに実施されました。この場をお借りして御礼申し上げます。
 ご意見などございましたら次回検定試験実施の際の参考とさせていただきますので、「標準解答に対する意見」という表題で事務局宛にemail(office@nipta.org)でお寄せください。


1級/知財法務実務


第6回 知的財産翻訳検定 1級/知財法務実務 講評

 今回は、級別、および独立した部門となった第1回目として、実務上需要の多い、いわゆる中間処理に関する題材を取り上げました。いずれの解答も、各解答者が特許特有の用語や表現を用いた実務に経験を有することを感じさせるものでした。  拒絶理由通知書に頻出する用語や特有の表現については、例えば特許庁技術懇話会編「特許実務用語和英辞典」(日刊工業新聞社)などに例文とともに多数収録されていますので、まだご存じでない向きには参考にされるとよいでしょう。  参考までに、本問では、在外者に日本特許法上の問題点を説明する場面を想定していますが、このような場合、例えば「進歩性」といった用語をアメリカ代理人・出願人に対しては「非自明性」(unobviousness)等の近似の用語を用いて理解しやすくする対応が考えられます。一方、日本の進歩性とアメリカの非自明性は別個の概念ですから、親切に対応しているつもりがかえって誤解を招いたりすることもあり得ます。例えば、非自明性を生じる程度の構成上の差異によって、進歩性がクリアできるとの期待を抱かせる、といったことです。この点、実際には相手方の日本実務に対する理解程度等を勘案して使い分ける配慮が必要です。  本部門の場合、出題の趣旨として、いわゆる一対一対応の翻訳というよりは、対象原文の内容をくみ上げた上でどれだけ読み手にストレートに伝えられるか、という点を重視するようにしています。あくまでも私見であり、極論ですが、標準の英文法等に照らせば軽微な誤りがあったとしても、全体として状況の説明と将来的な対応がよどみなく正確に説明されている、優れた解答があり得ると思います。文法的な事項などの基本をないがしろにしてよいという意味では決してありませんが、内容を十分に咀嚼した上で換骨奪胎するくらいのことは本部門においてはむしろ個人的には好意的にとらえたいと考えています。今後も多くの方が自信を持って挑戦されることを期待しています。 以上



問題(知財法務実務)PDF形式139KB   標準解答(知財法務実務)PDF形式41KB





1級/電気・電子工学

第6回NIPTA翻訳検定 1級/電気・電子工学 講評

 和英翻訳としては第四回目となりますが、他の技術分野(機械工学および化学)と同様に、今回も前回同様に三つの課題で試験問題を構成しました。まず、第一課題を、ブルートゥースモジュールに関する発明についての独立クレームとその従属クレームとしました。第二課題は、マイクロマシン技術を用いた高周波デバイス、RFMEMS(Radio Frequency Micro Electro Mechanical Systems)の発明に関する背景技術記載からの出題です。そして、第三課題は、ロボット制御装置に関する発明の実施例の記載からの出題です。  今回の受験生の皆さんは1級に挑戦されるだけあり、それぞれに相応の知識と経験をお持ちの方たちばかりで頼もしい限りです。ただ、惜しくも1級認定には至らずという方が多かったのも事実です。  さて、課題1については、クレームが持つ独特の形式については独立および従属いずれのクレームについてもほとんど問題がありませんでした。しかし、形式以外で受験者を悩ませたいくつかの点があります。一つは、「パケットの欠落」という一部表現から「パケット(そのものの)欠落」と解釈したような訳が散見されました。これは参考資料にも明記されている通り、「パケットに含まれるデータの欠落」について論じていますのでそのことを踏まえた訳としていただきたい。また、正しくデータ構造を理解しても訳し難い、というのが「1つ間を空けた2つのパケットのデータ」という表現です。標準回答では、”data in two previously received packets straddling an arbitrary packet”としましたが、いろいろの工夫がありました。例えば、”data in pre-transmitted two packets that come first and last among three consecutive packets”という訳ですが、少し意訳していると思います。  次に、課題2では、皆さん比較的上手に訳されていましたが、「安価なシリコン基板上に高周波回路を作製しても基板の影響を受け難い」という表現において、”--- not easily influenced by the substrate”という形式が多く、この場合、「安価な基板の何が回路に影響を与えるか」という点の「原因の特定」が不明であり、少し補充が必要となります。例えば、”--- not easily influenced by the substrate properties”などのように、”properties”などの言葉を付加することが適切でしょう。また、「両者を同一基板上に形成する」という表現の訳として “on the same substrate” の形式が多く見受けられました。必ずしも間違いではないと思いますが、この場合の「同一」は「他と比較しての同一」ではありませんので、on a single substrate” とか “on a common substrate” の方がより良いと思います。  課題3は、皆さんにとって平易過ぎたようで、大きな誤訳などはなく、冠詞や三単現のSの欠落などケアレスミスに限られていました。最後の課題で時間に迫られた様子が伺えます。  今回、電気電子工学分野での1級合格者は1人のみですが、他の受験者の皆さんも多くがもう一歩及ばずというところでしたので大変残念に思っています。したがい、是非とも更に研鑽を詰まれて再度挑戦していただきたいと期待しています。

問題(電気・電子工学)PDF形式139KB  標準解答(電気・電子工学)PDF形式98KB



1級/機 械


第6回 知的財産翻訳検定 1級/機械工学 講評


(問1) 問1に関しては、特に訳文を作成する上で捻った問題としていませんでしたので、回答者の方もほぼ皆さん当たり前に翻訳していただいたようです。英文法的な誤りはそれほど見当たりませんでした。1、2問題点を挙げると、主語が方法(method)でありながら動詞が部材を有する内容になっていた点、また、強固地盤改良体を装置的に考えていた点、には内容把握に間違いがあり減点対称としました。 (問2) 問2に関しては、特に英文法的に問題と成る記載ではありませんでしたが、時計の部品名が普段あまり見慣れない物、または訳語自身が確立化されていないものをどのように訳するかにポイントを置きました。皆様苦労されたようですが、より不自然と思われる訳語は減点対称としました。 (問3) 問3で問題にしたのは、クレーム1をcomprising形式で作成できるかを特にポイントに置いた問題としましたが、この点に関してはほぼ皆様問題ありませんでした。一方、手段をmeansとされた方がほとんどでしたが、今はあまり使わないようになっています。クレーム2では、ワイヤの表現をどうするか、クレーム3ではfurther comprisingで書かれているか、を問題にしましたが、受験者によって若干の表現の違いはあれ、多くの方がちゃんとされていました。今回は問題が易しかったせいか最後まで作成されている方の中ではクレームでの大きな減点はそれほど有りませんでした。

問題(機械工学)PDF形式48KB   標準解答(機械工学)PDF形式118KB



1級/化 学

第6回 知的財産翻訳検定 1級/化 学  講評

 化学の問題は、有機・高分子化学、食品、半導体プロセスと多岐にわたっており、これらの問題を限られた時間に解答するには、化学に関する幅広い技術知識を持っていなければならない。  問1は@ポリウレタン・プレポリマーと充填剤を含む接着剤組成物で、Aプレポリマーがポリオールとポリイソシアネートの反応生成物であること、Bポリオールがジオールまたはジカルボン酸のポリマーであること、つまり、組成物の記述が3つの階層で記述されているように翻訳すればそれほど難しい問題ではない。これらの階層を理解しやすくするために、参照のために実施例を示しておいたが、勘違いしてこの部分まで翻訳した解答者がいたのは残念であった。問題文を注意深く読み取ることは、実際の翻訳業務に際して、依頼主の細かい注文に応じる能力にも通じるので注意してほしい。 請求項1の中で、気をつけないといけない部分は、イソシアネート末端基の数である。プレポリマーは水酸基末端あるいはイソシアネート末端のいずれかであるが、直鎖のポリマーの末端基は2つあることは常識である。従って、この場合は、イソシアネート末端は常識的に2つなければ後の反応が正常に起こらないことくらいは理解できないといけない。これを単数にしていた解答があったのは、技術の理解が不十分といわざるを得ない。反応を伴う記述に関しては、その反応の真意をきちんと理解しないと満足できる翻訳にならないことを肝に銘じてほしい。 問2は食品の問題である。あまり外国出願の多くない分野なので、多くの人にとって未知の分野の翻訳ということになる。従って、基本的な英文表現力と、的確な用語の選択が課題となる。また、「パネラー」のような和製英語にひっかからない注意力も問われている。さらに、表の訳では場所に制限があるため簡潔で要を得た表現力も問われている。たとえば、評価基準の部分で、標準解答は原文に近い形で提示しているが、この5段階評価をそれぞれわずか1語で表現することができる(たとえば、評点5から順に”None”, “Slight”, ”Moderate”, “Distinct”, ”Strong”というように)。 問3はガラス基板の表面処理の問題である。表面処理関係の特許には頻繁に出てくる用語ばかりなので、それほど難しくはない。解答を見て気付いたことは、@可算名詞と不可算名詞の区別ができていない、A単数と複数の表現の区別ができていない、B定冠詞と不定冠詞の使い分けができていないなど、日本人の最も苦手とする部分が未解決なままであることである。これらは基本的な文法のひとつなので基礎をきちんと固めてほしい。 試験にチャレンジすることは大いに誉められることである。合格できなかった人は、自分の解答と標準解答を比べて自分の欠点を克服して是非再チャレンジしてほしい。また、合格した人もこれがゴールではなく、さらに研鑽を積んでより良い表現を追求することを希望する。

問題(化学)PDF形式184KB   標準解答(化学)PDF形式51KB





2級

第6回NIPTA翻訳検定 2級 講評

知的財産翻訳検定に「2級」を設けたのは今回が初めてです。物品、化学、電気に素材をもとめ、特許明細書に良く出てくる表現を題材にした3問の課題文が出題されました。技術内容は、特許翻訳者であれば誰でも理解できると思われる平易なもので、英文を構成する力の程度が問われることになりました。その意味では、問題1が一番難しかったようです。


<問題1について>

最初のセンテンスの「安全具の使用が法律的に義務付けられている」については、should を用いて、「法律的に」を訳していない例、we とか you などの人称代名詞を多用した例、など改良を要すると思われる解答訳がかなりありました。また, 「同乗させる」の訳として、"accompany infants" という訳もいくつかありましたが、この表現ですと、親が幼児に同伴するというような意味になるので減点の対象としました。また、「安全具」を "safety tool" と訳した例も多くありましたが、チャイルドシートなどを"tool"と表現するのは不適切と認め減点の対象としました。 「車内に設置した場合、スペースが大き過ぎる。」の訳として、"too large to install"と訳した例がありましたが、これだと車内に設置できないことになってしまいます。 末尾の文章「これらの問題を改善するためになされた」について、"improve these disadvantages" などの訳がありましたが、本来 problems や disadvantages を improve することはできません。「改善」を、「解決」、「減殺」、「対処」などと読み替えて訳した解答は正解としてあります。


<問題2について>

化学分野の明細書では化合物の成分範囲の記述はよく目にするところです。解答訳は概ねレベルの高いものでしたが、いくつか指摘されるべき点もありました。そのひとつは質量%を、wt%、percent by weight のように、「重量%」と訳した解答が約半数にのぼったことです。地球の表面上では位置による重力の違いは無視しえるほど小さく、「質量1gは、ほぼ重量1g」になりますが、厳密にいえば「質量%」と「重量%」とは異なるものであり、mass %, percent by massの表現も確立していることから、採点委員会の考えとして、「重量%」と読める訳は減点の対象としました。また、「含有量」については、"contained amount" などの訳がありましたが、"content" という一般的に認知された表現を用いた訳が訳半数でした。また、「好ましくない」を、"unfavorable"、"unfortunate"などと訳した例も多くありましたが、"not preferred" など、の一般的な表現を用いた解答と比較して判断し減点の対象としました。さらにまた、「添加剤」を"addictive",「混合物」を"combination"とするなど、化学分野の基本的な表現が抑えられていない解答がいくつかありました。


<問題3について>

電子メール通信システムに関する発明についてのクレームは、第1の種類の電子データと第1の電子データとの関係、第2の種類の電子データと第2の電子データとの関係、が不明瞭なため、混乱があったようです。「第1の電子データ」を「第1の種類の電子データ」とみなした訳も、そうでない訳も、減点対象とはしていません。また、原文は、「…おいて」形式の表現になっていますが、訳文として、one part 形式、two part 形式、いずれも正解としてあります。構成要素として、「第1および第2の情報端末装置」と「データ中継装置」とをきちんと抜き出している解答訳においても、両者をつなぐ and が抜けていたり、先行詞がないものについて定冠詞 "the" をつけるなどの、基本的な訳ミスがかなり多くありました。また、「電子メール」を"electric mail" としたり、従属クレームの従属もとのクレーム(クレーム1)の記載が抜けているような解答訳も目に付きました。「上記第2の電子データが存在するかどうかの判定を行う」の「判定」を、judge と訳した解答がいくつかありましたが、determine とするのが良いとの判断から減点の対象としています。

問題(2級)PDF形式90KB  標準解答(2級)PDF形式41KB





3級

第6回NIPTA翻訳検定 3級 講評

準備中につき、後日公表いたします。なお、出題問題と解答と解説は、下記リンク先でご覧いただけます。

問題(3級)PDF形式158KB  解答と解説(3級)PDF形式140KB

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