1級/知財法務実務
第14回 知的財産翻訳検定 1級/知財法務実務 講評
As with last year’s examination, Examinees were required to summarize rather than simply translate an actual IP court case. There was a lot to read: The IP court’s opinion quoted extensively from the lower court’s opinion, and then the patent itself and the drawings -- all of which needed to be interpreted. Overall, the Examinees did an excellent job.
The main problem was identifying the issue. It is important to keep in mind that the issue may not be explicitly stated, and in any given case there may be several issues.
In this case, probably the most important issue concerned the adequacy or credibility of the testing offered by the plaintiff-appellants as proof of infringement. In short, the court simply did not think that the tests adequately reproduced the actual accused product, and therefore the test results lacked credibility and did not prove infringement.
As a general rule, a case brief should summarize the background of the case, that is, identify the parties and the facts, and how the case was handled in the lower court (if the case is an appeal); state the issue; give the holding; and explain the court’s reasoning.
The difficulty arises in deciding what to translate and what to leave out of the translation. A few hints: (1) In describing what happened at the lower court, just a short, basic summary is sufficient; (2) it is helpful to summarize the parties’ arguments, because such a summary tends to help identify the issue; and (3) a single sentence or even phrase summarizing the holding in the case is sufficient.
前回の和文英訳試験に引き続き、日本の裁判例を英語で要約していただく出題としました。あらかじめ回答用のテンプレートを用意して、試験時間に対して過度の負担とならないように努めたつもりですが、結果としては時間切れのために回答を提出できない方が出ることとなりました。課題の判決文の読込みや要約に必要な部分を抽出する段階で時間を取られた方もあったかと思いますが、ご了承ください。
今回の問題では、侵害の成否にあたり、専門家による実験結果が問題となっていましたが、その技術的な議論に深入りしすぎて裁判所の判断やその根拠となった事項の記載が不十分となる傾向も見られました。おおよその仕上がり語数を目安に、争点と裁判所の結論、理由付けをバランスよく記載することが望まれます。
英語表現としては、検索サイトやオンライン辞書で対応訳語の候補が簡単に得られますが、例えばアメリカの陪審裁判に用いられる用語(評決(verdict)等)は、日本の判決文の訳語として適当でない場合もあります。例えば、知的財産高等裁判所の判決英語要約などで、頻出する英語表現に慣れておくことが役に立つと思われます。残念ながら今回合格とならなかったみなさまにも、再度のチャレンジをお待ちしています。
問題(知財法務実務)PDF形式65.3KB 標準解答(知財法務実務)PDF形式49.8KB
1級/電気・電子工学
第14回NIPTA翻訳検定 1級/電気・電子工学 講評
問1について
ほぼ半数の人が「かなり良く出来ている」訳文を作ってくれていました。
技術内容が比較的平易なものだったからかもしれません。残りの半分の人は、英文クレームの書き方の基本を習得する必要があると感じました。請求項1の「照明器具」の訳語が間違っている答案や、provide withの使い方が間違っている答案も散見されました。antecedent basisの無いものやtheの使い方が間違っている答案もありました。英文クレームにはclaim grammarと呼ばれる特殊な文法が適用されますので、再確認してほしいと思います。
問2および問3について
背景説明(問2)と実施例(問3)の解答について簡単に講評します。全体的に言えることは、和文の特徴である、一文多論理(例外も多くありますが)、英文の特徴である一文一論理を意識せずに、長い、日本語を、関係代名詞を用いて、そのまま直訳しようとする傾向が大半の受験者の方に見られます。まず、和文の一文をそれぞれの論理に分割し、それから翻訳しないと、処理に困る和文原稿が多くあります。翻訳のプロとしては、この技術に習熟することが欠かせません。意味不明または、意味が読取りにくい訳文が、かなりありました。問2で、”封入された”の訳にfillやsealが当てられていました。これらの動詞を使用された全員の受験者の用法が、正用法ではありませんでした。例えば、chamber is filled with gasや能動態ならink fills the recessesといった用法が正しいのですが、ink is filledの形式となっていました。sealも同系統の動詞ですが、正用法では使用されていませんでした。mountain is covered with snowは、OKですが、snow is coveredは、成り立たないことを考えればすぐに理解できます。現実にsnowが何かにカバーされていれば別ですが。また、配向膜と偏光板は、それぞれ一枚と想定しても、2枚と想定しても正解としました。LCDの背景技術そのものの試験ではありませんので。専門用語の選択の間違いもありました。専門用語は、非常に、大事なのでよくサーチして頂きたいと思います。かなりキャリヤーを感じさせられる解答も多くありましたので、和文の特徴である、一文多論理、英文の特徴である一文一論理を再度、意識して翻訳すれば、飛躍的に文章の明確さが向上する可能性がある受験者がかなりいらっしゃいます。たとえ、今回が、実を結ばなくても、再挑戦、再々挑戦されることを強く期待します
問題(電気・電子工学)PDF形式76.4KB 標準解答(電気・電子工学)PDF形式79.6KB
1級/機械工学
第14回 知的財産翻訳検定 1級/機械工学 講評
今回は、技術的難易度をいくらか引き下げる代わりに、正確な翻訳を求めるのが作問の方針でした。よって、技術内容はあまり難しくありませんでしたが、じっくり読み込まないと翻訳が難しい問題だった上に分量的にも多く、見直しの時間が足りなかった方が多かったようです。そのためか、スペルミス、冠詞のミスなどのケアレスミスや軽微な誤訳、不適切表現が散見される回答が多く、それらが重なった結果、合格ラインを下回ってしまうケースが多くみられました。逆に、致命的なミスは全体を通してほとんど見られず、「大きな誤訳」はなくとも一貫して「正確な翻訳」をする事の難しさを改めて実感された方が多かったのではないでしょうか。
問1について
問1は、従来技術の問題を取り上げた記述です。技術的には至って単純な内容でしたが、問題を整理して英作文する事はやはり難しいものです。特に今回難しかったのは、連鎖的に起こりうる障害の関係、つまり因果関係がきちんと表現できているかという事で、これを落とされた方は少なくありません。また、米国出願の場合、注意しなければならないのは、「起こりうる問題」を「起こる」と断言してしまっていいかどうかの判断です。確実に起こると断言できないものを通常の文章で起こるかのように記載してしまうと、無意味な限定につながったり揚げ足の材料を提供したりすることになってしまいます。Mayやcanを要所要所でかませる事が肝心で、今回はこれをミス無く出来た受験者はほぼ皆無でした。
問2について
問2も、2ストのエンジンという、至って単純な構造を扱う問題でしたが、基本的な機械関係の表現が多く含まれています。普段からきちんとした翻訳をされている方は、難なくクリアできたのではないでしょうか。ただ、ここにも多く見られるミスを誘う落とし穴があります。「?自在に」という表現です。例えば、「回動自在」という表現があったとしましょう。普段から色々な方のの翻訳を見ていると、これをfreely turnableと、freelyをつけてしまう方がほとんどではないでしょうか。確かに、インターネットや様々なデータベースで過去になされた翻訳を検索するとfreelyが横行していますが、正しい訳ではありません。大勢が犯しているミスならば自分も平気、ではいけません。「回動自在に」はturnably、「回転自在に」はrotatably、「摺動自在に」はslidably、です。
問3について
問3は、上皿天秤に関する問題でした。一見すると構成要素が整理して列挙されており、米国用のcomprising 形式にしやすい原文に見えますが、実際には図面をよく見て構造を完全に理解しなければ要素の数やその関わり合い方を正しく翻訳できないような文章となっています。
特に、最後の「垂直昇降杆」の説明の翻訳に苦慮された方が多くいらっしゃったようです。よく図面を見てみると、「一対の窓穴」がその直後の「上部窓穴」、「下部窓穴」と同じ物であり、「上部窓穴の上辺部」が「V形状溝」に係合し、「下部窓穴の下辺部」が「逆V形状溝」に係合するように形成されている事がわかります。また、「上下揺動アームが平行する状態」は、「上下揺動アームが互いに平行する状態」を指しています。これらの要素の関わり合い方を理解した上で、正しく翻訳する必要があります。
また、要素の数の表現に関して表現に不統一の見られる回答が多くありました。「支持板」、「V形状の支点受」、及び「逆V形状の支点受」など、要素のほとんどは複数設けられていますので、複数形で記載されていた要素が突然単数になったり、その逆が起きたりすることは避けるべきです。
また、「基台部」を要素として挙げ、そのサブ要素として前後の「支持板」、及び「支点受」を挙げるというような階層構造でクレームを訳出された方が複数いらっしゃいました。このような階層構造は、クレームをすっきりと読みやすくする上で有効ですが、今回の場合は不適切です。例えば「基台部」に関しては、図面を見ながら原文を読むと、「基台部」の上に前後の「支持板」が立設され、「支点受」は前後の「支持板」の一部であることがわかります。そのため、「支点受」と前後の「支持板」を別々の要素として基台部に含ませる形式は避けた方が無難です。
今回は技術内容がそこまで難しくなかったため、ひょっとすると油断してしまった方もいらっしゃるかも知れません。しかし、単純なものほど正確に伝える事が難しいものもあります。翻訳は、正確に相手に伝わる確信が得られるまで、気を抜いては行けません。
問題(機械工学)PDF形式2.12MB 標準解答(機械工学)PDF形式44.3KB
1級/化 学
第14回 知的財産翻訳検定 1級/化 学 講評
今回の化学では、4題をそれぞれ化学増幅レジスト、ナノ粒子、合金、有機合成に関連した内容にしました。残念ながら1級合格者該当なしという結果になりました。以下、各問題についてコメントしますので、参考にされ、また受験者それぞれへの採点者からのコメントを読み、是非今後の改善につなげてください。
問1について
化学分野で頻出する、レジストを用いたパターン形成に関する出題と致しました。
(1)各工程で何が行われているかを理解して書く必要がありました。第2工程では、紫外光の照射により、化学的な活性種を発生させます。第3工程では、化学反応を進行させることにより、(次工程で用いる現像液に対して)溶解特性が変化した領域を形成します。次の第4工程では、現像液を用いて現像を行います。第3工程と第4工程で言及する現像液は同じものですから、第3工程で"a developer"とした場合、第4工程では"the developer"とする必要があります。
(2)「〜を〜に塗布する」で"coat"を使う場合は、たとえば"coat 基板 with a resist" というように書く必要があります。同様に「〜を〜に照射する」で"irradiate"を使う場合は、"irradiate 部位 with 光" というように書く必要があります。他にもdope等、同様の使い方をする動詞は多くあります。
問2について
最近話題になることの多いナノ粒子に関する出題と致しました。背景技術の記載でよく見られる、「注目を集めている」「課題となっている」「利点、欠点」「しやすい、し難い」の表現を含む問題文となっています。抜け等を除いて、ほとんどの解答者がよくできていました。
問3について
合金に関する出題です。内容的には、それほど難しいものではなく、専門用語の訳も含めて、全体的には良くできていました。ただ、「〜の大きさに達する」など、正確に訳すことができていない部分もありました。
問4について
有機合成に関する出題です。難しい表現はなく、文法的にはほとんどの回答者が良くできていました。しかし、残念ながら、化合物名について間違い無く翻訳することができた解答者はわずかでした。化合物名を正確に翻訳することは、非常に重要であり、化学分野の翻訳者にとって必須のスキルであると考えてください。
問題(化学)PDF形式80.9KB 標準解答(化学)PDF形式53.3KB
1級/バイオ
第14回 知的財産翻訳検定 1級/バイオ 講評
問1について
技術用語の使い方さえ間違えなければ、文章構成としては、それほど難しいものではなかっただろうと思われます。
「機構」というと、すぐにmechanismを思い浮かべがちですが、systemという意味もあります。今回は、どちらでも良いこととしていますが、使い分ける必要がある場合もありますので、一語一訳で覚えるのではなく、日本語と英語、それぞれの単語の持つ意味の広がりをきちんと把握して、適切に訳せるようにして下さい。
問2について
特に難しい技術用語も無かったせいか、全体によくできていました。日本語では、「成長させる」と使役形になっているような部分でも、わざわざ英語で使役を現す表現を探し求める必要はありません。どういう文章構成にするかは、主語の取り方によっても変わってきますので、英語として自然な形になるような表現になるように心がけましょう。
問3について
特に難しい技術用語はなかったのですが、最後の文の翻訳があまりできていなかったようです。シンプルな英文を書くことを念頭に訳すことが大切だと思います。
問4について
特に複雑なクレームではなかったのですが、よく訳せている人とそうでない人との差がはっきり出ました。クレーム6については、「又は」が使われていますが、実際の用途は「修復、復元、再生」ですので、マーカッシュ形式とする方が用途を明確に記載する上ではよいように思います。
問題(バイオ)PDF形式80.4KB 標準解答(バイオ)PDF形式93.2KB
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