● 第25回知的財産翻訳検定試験 参考解答訳と講評
参考解答訳および講評の掲載にあたって |
当然のことながら翻訳の試験では「正解」が幾通りもあり得ます。 また、採点者の好みによって評価が変わるようなことは厳に避けるべきです。このような観点から、採点は、主に、「これは誰が見ても間違い」という点についてその深刻度に応じて重み付けをした減点を行う方式で行っています。また、各ジャンルについてそれぞれ2名の採点者(氏名公表を差し控えます)が採点にあたり、両者の評価が著しく異なる場合は必要により第3者が加わって意見をすりあわせることにより、できるだけ公正な評価を行うことを心がけました。 ここに掲載する「参考解答訳」は作問にあたった試験委員が中心になって作成したものです。模範解答という意味ではなく、あくまでも参考用に提示するものです。また、「講評」は、実際に採点評価にあたられた採点委員の方々のご指摘をもとに作成したものです。 今回の検定試験は、このように多くの先生方のご理解とご支援のもとに実施されました。この場をお借りして御礼申し上げます。 ご意見などございましたら今後の検定試験実施の際の参考とさせていただきますので、「参考解答訳に対する意見」という表題で検定事務局宛にemail<kentei(at)nipta.org>でお寄せください。(※「(at)は通常のメールアドレスの「@」を意味しています。迷惑メール防止対策のため、このような表示をしておりますので、予めご了承ください。) |
1級/知財法務実務
1級/電気・電子工学 1級/機械工学 問題(機械工学)PDF形式
参考解答訳(機械工学)PDF形式 1級/化 学 1級/バイオテクノロジー |
2級
第25回 知的財産翻訳検定 2級 講評 |
1.問1は、明細書で使用する用語の定義について述べる頻出表現です。as described herein、exemplary、shall beなどの特殊な表現でつまずいた例が見られました。 減点の対象にはしておりませんが、訳語適格性に問題のある例もありました。removablyは正確には「取り外し可能」でしょう。 identical reference numeral, like elementのidenticalとlikeは正確に訳し分けなくてはなりません。参照番号と参照符号との混同も見られました。 various adhesives such as glue or resinでは、adhesiveが上位概念で接着剤(粘着材ではない)、glueはニカワという意味もありますがこのような技術的文献ではニカワではなく、糊または糊材などとすべきでしょう。resinを松ヤニとしたのは不適切です。ちなみに粘着剤はpressure sensitive adhesiveといいます。 as oriented in FIG. 1のorientは方向付けをするという意味です。意味は、明細書中の「上側」、「下側」などの方向は、図1を基準として述べられている、という意味です。 基本的な知識として段落番号を訳文に入れるならば全角にしなくてはなりません。 2.問2は、メディカル分野の腹腔鏡手術に関する案件の一部ですが、技術的な素養のある方であれば十分理解可能な平易な内容のものです。 訳語の不適切な例が多かったようです。用語は用例を調べれば、適訳が見つかるはずです。minimally invasive surgical procedureは難しい用語ですが、Google検索で簡単に見つかります。 概念語と実態語を分けて使わなくてはなりません。incision切開(切り開くという概念語)は、ここでは切開部(切り開かれた場所という実態語)です。structureの概念語は「構造」実態語は「構造体」です。 be動詞の誤訳が見られました。the lens is at room temperatureのbeは、この状況では、「になる」ではなく「である」です。(内容を考えれば「レンズは、当然はじめは室温である」であって、室温に「なる」という訳は不適切です。 最後の文章は「曇ったレンズを抜き取って洗浄したら室温になってしまって、挿入するとまた曇りが発生する」という文章の流れを考えれば適訳ができるでしょう。 なお、問2の課題英文に一部不明瞭な構文が存在します。前後の文脈から意味が通じるレベルのものですが、受験者の皆様には解答作成にあたりご不安があったことと思います。課題文選定にあったては原典を改変せずにそのまま出題することを原則としておりますが、今後できるだけ瑕疵のないものを選ぶように一層の注意をいたします。 3.問3は請求項の問題です。 請求項は、その先頭にある「we claim:」などの書き出しの目的語、またはWhat is Claimed isなどの書き出しの補語である名詞句でなくてはなりません。名詞句なので体言止めであり、用言止めは不可です。 comprising:の中にまたcomprising:が含まれていて階層関係にあります。それぞれのcomprisingは主語が異なります。ここをしっかり理解して訳さないと誤訳になります。 請求項は英語の記述文章を淡々と構造的に(構造を無視せずに)訳すようにしないと、かえって難しくなってしまいます。先人が考えて、英語の構造を日本語の構造に直す表現を考えてくれているのです。多くの参考訳例を集めて表現法を勉強してください。 A redox device, in particular a hydrogen-oxygen redox device, comprising:の「コンマcomprising」は明確な主語を持つ独立分詞構文(名詞句扱い)で、その主語は、A redox deviceですので、the redox deviceと表現すべきですが、習慣上省略してもよいことになっています。 請求項の表現では、長い修飾部を持った名詞句の表現「であって名詞句」表現が重要です。 is configured asは、「〜として構成される、である」を正解としました。 難しかった表現は、said side facing away from a reaction zoneでしょうが、「反応領域から離れる方向に向いている」、「反応領域と反対の側に向いている」という意味が出ていればよしとしました。 4.総じて(基本的知識) 1)theの定冠詞を訳さないと前文とのつながりが切れてしまうと言うことを認識してください。 例:猫a catを飼っているが、猫が夜中に走り回って寝られない ↓ 猫a catを飼っているが、この猫the catが夜中に走り回って寝られない 2)日本語の格助詞の「は」と「が」は意味が違って使い分けなくてはならないことは文章記述の基本です。文献で明確に理解しておいてください。 3)and、orの日本語訳は、andは「および<ならびに」、orは「または<もしくは」が基本です。階層関係の訳語を正確に理解してください。これも関連サイトでしっかり勉強しておくことです。 参考サイト:http://adminn.fc2web.com/houmu/kisoyougo/kisoyougo.html ついでに、列挙の「と、と、と」も重要な知識です。 4)特に請求項では「であって名詞句」の表現をマスターしてください。 |
3級
中国語
ドイツ語
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第25回 知的財産翻訳検定 3級 講評
解答例と解説をご覧ください。
第25回 知的財産翻訳検定 中国語 講評
日本知的財産翻訳協会が主催する初めての中日知的財産翻訳検定試験ですが、13名の受験者が集まりました。それは、少なくない方々が中国語−日本語の特許翻訳に関わっている状況を反映したものと思われます。13名の受験者の中から3名の合格者が出ました。その他にも、翻訳力が十分あると思われるが、今回の試験において誤訳・不適訳が散見され、合格できなかった受験者も数名います。
問1では、請求項3の「套设于转轴一侧的齿轮」に関する翻訳において、誤訳が多く見られました。この文章の意味はほとんどの受験者が理解できたと思いますが、「套设」の適切な訳語を知らなかったのではないかと思います。「套设」の適切な訳語としては「外嵌」があり、「回転軸の片側に外嵌されたギヤ」と訳すかもしくは、「回転軸の片側の外側に嵌合されたギヤ」と訳してもよいでしょう。中国の特許公報には「套设」の用語がよく使われていますので、覚えておきましょう。
問2では、「油条」に関する翻訳において、多くの受験者が悩んだと思います。「油条」は、通常「揚げパン」と翻訳していいでしょう。但し、問2において、それを「揚げパン」に翻訳すると、その後に出てくる「この代表的な中国式の揚げパン」を読んだ人が、日本でもよく見られる揚げパンが何で「代表的な中国式」と言われるのか疑問に思うでしょう。したがって、ここでは、「油条」のままにして、「中国式の揚げパン」という訳注を付けたほうがいいでしょう。
最後に、今回の試験では、問題の説明文をよく読んでいないことに起因すると思われるミスが数名の受験者の解答から見られました。例えば、請求項や段落の番号の書き方が「日本出願用」になっていませんでした。翻訳する前に、まず問題の説明文をよく読んで、解答要求をはっきり理解してから翻訳をしましょう。
第25回 知的財産翻訳検定 ドイツ語 講評
【問1】
問1は、いわゆる電気自動車の話です。電気自動車にとって普及のネックとなるのが、その航続距離を決定するバッテリーであることは、新聞やTVなどを通じても知り得る情報です。問1では、従来技術において、この航続距離の問題をどのように解消してきたかが述べられています。その1つの解決手段がレンジエクステンダーです。ハイブリッド車にシリーズ式、パラレル式などがあることも特許翻訳者にとっては基本的な知識です。
訳語についてですが、Elektrofahrzeuge, insbesondere Elektroautosという表現がありますが、この場合、Elektrofahrzeugeは、「電動車両」と訳した人が多くいましたが、広義には、電気エネルギーで駆動される乗り物全般が含まれると思われます。すなわち、自動車やレール車両のみならず、航空機(Luftfahrzeug)や船(Wasserfahrzeug)なども含まれます。したがって、正確に言うならば「電動輸送機器」(Wikipedia参照)などの訳語が適当でしょう(今回は「電動車両」と訳しても減点しませんでした)。それに対して、Elektroautosですが、こちらが日本で言う「電気自動車」に相当します。
問1は、従来技術に関する文章で、いわば特許明細書の中でも、時事関連のような比較的一般的な文章に近い内容ですので、技術用語以外の表現は、読みやすい日本語を心掛けてもよろしいのではないかと思います。
einen Engpass darstellen、Es handelt sich bei etw3 um etw4などのドイツ語の言い回しがきちんと訳されているかも重要なポイントです。
【問2】
前半は、ポリマーの基本的な性質について述べられています。
ポリマーは、溶融された状態でも、高い動的粘度を有するので、撹拌によって均質化しようとしても困難であることが述べられています。
durch Ruehrenをerschwert wirdにかけて、「撹拌によって困難になる」と訳しているケースがありました。
etw durch4 ersetzenを「交換する」と訳しているケースがありましたが、厳密に言うと、ersetzenは、古いものを新しいものに「交換する」という意味ではなく、何かを別の何かによって「代える」という意味です。つまり、この場合は、これまで使用していたAbsperrventilに代えてBodenventilを使用することで、デッドゾーンの発生が回避される、という意味です。
後半は、前半で述べた解決手段を実現するための具体的な実施形態が説明されています。弁のVerschlussを「閉塞」と訳されているケースがいくつかありました。「閉塞」とは、流路に異物が詰まってしまう不都合を意味するので、適訳ではありません。VerschlussやSchliessenは、開閉式の弁を単に「閉じる」という意味です。
段落[0019]には、出題元の原文に誤記があったようです。3行目〜4行目の「Die dabei bei sich beruhrenden Dichtflachen des Verschlusskorpers 1.5‘ und des Ventilsitzes 1.9‘」ですが、「dabei bei」のbeiが余計だったようです。「このときに接触し合うシール面は」という主語なる部分です。この程度の誤記は特許明細書では珍しくありませんので、ほとんどの人が気付かれて正しく訳されていました。
sich in4 hinein erstrecken=「〜内に突入するように延在する」、
um4 herum fliessen=「〜を巡るように流れる」、
durch4 hindurch fliessen=「〜を通って流れる、
gegen4 pressen=「〜に押圧する、〜に圧着する」、
などの動作も、的確に訳していきたいところです。
【問3】
最後は、クレームです。これは実用新案なので、Schuetzanspruecheは、正確には「実用新案登録請求の範囲」となりますが、これはかなりの人ができていました。ただし、「特許請求の範囲」と書いても減点しませんでした。
請求項1で一番多かった誤りは、versorgenの訳です。これは、他動詞ですが、etw4 mit3〜で「etw4にmit3を供給する」という日本語になります。つまり4格目的語が「を」ではなく「に」となります。受動形になると、4格目的語が1格主語となるので、たとえば、die LEDs (4) werden mit einem Nennstrom versorgt. のような形になります。これは「LED(4)に定格電流が供給される」という日本語になります。
次に多かったミスは、請求項5です。
mit mindestens einem Traeger (5) aufweisend eine Mehrzahl von LEDs (4) verbindbar ist
のくだりですが、現在分詞aufweisendの係り方に注意です。ここを「少なくとも1つの支持体(5)を有する複数のLED(4)と接続可能」と訳している人がかなりいました。これは正しくは「複数のLED(4)を有する少なくとも1つの支持体(5)に接続可能」です。言い換えれば;
mit mindestens einem Traeger (5), der eine Mehrzahl von LEDs (4) aufweist, verbindbar ist
です。クレーム中でのこのように構成をねじ曲げてしまうような誤訳は致命的ミスとなりますので、特許翻訳者としては絶対に避けねばならないところです。
なお、請求項3、4には、「vorzugsweise」の表現が含まれていました。本来、日本国内の出願では禁じられている表現なので訳してよいのか迷われた人がいたかもしれません。そのまま訳していただいて構わなかったのですが、指示が不十分であった点、お詫び申し上げます。しかし、実際にこの部分を訳さなかった人はいませんでした。
※今回は、第1回目のドイツ語試験ということで、問題文の選定、レベル、量などに関して、出題する側も手探りの状態でありました。配慮が行き届かない点もあり、受験者の皆さまにご迷惑をおかけした点もあろうかと思います。今回の経験を、2回目以降の出題に生かして、より良い試験問題の作成につなげて参りたいと思います。
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