第38回知的財産翻訳検定試験 参考解答訳と講評



参考解答訳および講評の掲載にあたって

 当然のことながら翻訳の試験では「正解」が幾通りもあり得ます。
 また、採点者の好みによって評価が変わるようなことは厳に避けるべきです。このような観点から、採点は、主に、「これは誰が見ても間違い」という点についてその深刻度に応じて重み付けをした減点を行う方式で行っています。また、各ジャンルについてそれぞれ2名の採点者(氏名公表を差し控えます)が採点にあたり、両者の評価が著しく異なる場合は必要により第3者が加わって意見をすりあわせることにより、できるだけ公正な評価を行うことを心がけました。
 ここに掲載する「参考解答訳」は作問にあたった試験委員が中心になって作成したものです。模範解答という意味ではなく、あくまでも参考用に提示するものです。また、「講評」は、実際に採点評価にあたられた採点委員の方々のご指摘をもとに作成したものです。 今回の検定試験は、このように多くの先生方のご理解とご支援のもとに実施されました。この場をお借りして御礼申し上げます。
 ご意見などございましたら今後の検定試験実施の際の参考とさせていただきますので、「参考解答訳に対する意見」という表題で検定事務局宛にemail<kentei(at)nipta.org>でお寄せください。(※「(at)は通常のメールアドレスの「@」を意味しています。迷惑メール防止対策のため、このような表示をしておりますので、予めご了承ください。)


 ※採点方法等につきましては、知的財産翻訳検定試験 採点要領 をご確認ください。


1級/知財法務実務


第38回 知的財産翻訳検定 1級/知財法務実務 講評

【問1】
 本問は、特許出願、出願審査、特許権に関する用語や表現について試問するため、東京地方裁判所で争われた特許権侵害訴訟に題材を取りました。会計処理ソフトウェアのリーディングベンダー同士で争われた事件としてかなり話題となったことをご記憶の向きもあるかと思います。
 問題文は該当判決の中から、均等侵害の成否について検討されている部分を採用しました。周知のように、均等侵害の成否は、最高裁判所が判示した5つの要件に照らして判断されます。これらの要件については、例えば特許庁の模倣品対策に関するQ&Aコーナーにわかりやすい解説が掲載されています(https://www.jpo.go.jp/support/ipr/qanda/q04.html)。結論としては、当事件の裁判所は、第1要件(被疑侵害品の異なる部分が特許発明の本質的部分でないこと)、第5要件(被疑侵害品の異なる部分が出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されている等、特段の事情がないこと)に欠けているとして均等侵害を否定しています。

 拝見した答案から採点時に感じた所感をご参考までに例示させていただきます。
・「出願経過」は特許用語ですので、例えばprosecution historyといった慣用訳語を採用されるのがよいでしょう。
・「均等侵害」をinfringement of equivalentsと訳されていますが、少々舌足らずに思われます。ここは、"infringement under the doctrine of equivalents"と正確に訳出した方が適当かと考えます。


【問2】
 「知財法務実務」の翻訳に携わる方とは、特許事務所・法律事務所、企業内知財部・法務部等のそれぞれの立場において、いわゆる特許明細書翻訳以外の翻訳ニーズを満たすことを期待されている人材との想定の下、「知財」の名の示すとおり特許以外の分野にも「法務」の名の示すとおり権利活用・行使の場面にも対応することのできるジェネラリストとして、かつ法律関連文書を取り扱うことのできるスペシャリストとしての力量を試すことを目的としています。
 上記に鑑みて、本問では、ジェネラリストとして「あまり知識のない分野の題材であっても、想像力を駆使して設定背景を咀嚼することのできる力」、またスペシャリストとして「文書の細部にまでこだわることのできる力」を見ることに主眼を置いています。したがって、従来から繰り返し強調しているとおり、今回の場合であれば、アニメ作品取引などの知識は何ら要求しておらず(これらはあれば加点要素です。)、「原文咀嚼」と「細部までの正確性」とをどこまで追求できているかを判断基準としています。

 今回の出題のポイントとしては、以下の点です。
・過去から繰り返し強調しているとおり、「定義語」については定義語として訳出しなければなりません。定義語であるにもかかわらず、通常語と区別不能な形態で訳出すると、当該語については、定義を適用せず、通常語として解釈すべきなのか曖昧になります。法律文書としての契約の解釈を大きく変貌させるものであり、法律文書の翻訳文として不適切です。
・本問では、契約書ではよく見られる「文中定義」(条項の文章内で対象の特徴を規定して「以下『〇〇』という。」と末尾に付して定義する方法)を多用して、どこからどこまでが定義なのか、またどの句がどこに係るのかという文中定義特有の難点を題材としています。文中定義は、前後の文章をよく読んで咀嚼理解しなければならないため、注意が必要です。
・文中定義が多用される契約書では、一文が長くなりがちで全体の意味を捉えるのに工夫が必要です。文章全体としては、定義語のみに着眼して意味を捉える(1条1項を例に取ると、大きなところとしては、「ABC及びXYZは、・・・「本業務提携」を実施することに合意する。」に着眼して意味を捉えます)とともに、定義語単位で細切れにして定義語の意味を把握していくフローを取ることが推奨されます。

 最後に、繰り返しではありますが、どの分野の翻訳でも原文咀嚼(字面追いは厳禁)を徹底すること、また法務分野では原文に対して「足さない、引かない」こと、細部までこだわることが質に大きな影響を与えます。残念ながら今回合格とならなかった受験者にも、上記した点などを参考にされ、ぜひ再度チャレンジしていただきたいと思います。


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1級/電気・電子工学

第38回 知的財産翻訳検定 1級/電気・電子工学 講評


【総論】
 多くの答案は、原文の意味を理解し、把握された意味合いを正確に英文化するよう努めていることが感じられ、よく勉強されているという印象を受けるものでした。不合格となった受験生も、合格まで僅かであった方が多かったため、採点コメントを参考に次回以降再挑戦いただければと存じます。
 不合格と合格とを分ける原因として、訳出において、「文章全体の意味/流れを把握して翻訳をしているか」ということがあるように思われました。そうでなく、一文一文をそれぞれ訳すようなやり方ですと、どこかで大きな間違いをしてしまうことがあるようです。まずは全体を読んで、全体としてどのような内容を書いているのかを把握することが大事だと思います。
 また、常々お伝えしていることですが、「原文に忠実な訳出」をするということも、今一度確認して戴ければと存じます。原文に忠実に、という意識が十分でないように思われる答案も散見されました。「ミラー翻訳」という、一言一句訳すという意味の言葉もありますが、それとは違います。原文の意味を十分に考え、それに沿った、文全体として原文の意味が伝わるような訳出をすることを常に心がけて下さい。英語と日本語の言語構造の違いがあるので、 原文の日本語に何らかの補足をしたり(主語を補うなど)、冗長部分を落としたり、その他短文化したりすることはあり得ます。しかし、そのような補足、変更等をする場合に、これをして原文の本来の意味から外れてしまわないか?と立ち止まって考える慎重さが、一流の特許翻訳者には必要だと思います。特許翻訳は、パリ条約ルートでも全く違う内容にしてしまうと優先権が働かなくなりますし、PCTルートに関しては、基本的には原文の「正確な翻訳」が求められ、それが守られない場合、特許無効などの厳しいペナルティがあります。


【各論】
(1)問1
 ブロックチェーンを契約の合意の証跡に関する問題です。比較的論理的で、短文化されて読みやすい文章で、それほど難しい問題ではなかったものと思います。ここでも、文章の全体を理解せずに、一文一文訳してしまうことで、やや不明確な訳出に繋がってしまった答案もあったように思います。一例として4行目の「送金元の電子署名のみ」は、この一文だけ見ると、文字通り「送金者の電子署名のみ」で他の情報は一切ない、という意味なのか、それとも「送金元」のみの電子署名が含まれていて、「送信先」の電子署名は含まれていない、という意味なのか分かりませんが、全体を読むと後者であることが分かります。前者のような意味で訳してしまった方は、やや近視眼的になってしまってはいなかったでしょうか。
 また、4行目に「電子証明方式は・・・成り立っており」、とあり、続く6行目に「契約は・・・成り立たず」とあり、どちらも「成り立つ」で、同じ単語を充てたくなります。しかし、文章全体の意味を考えると、両者の意味は微妙に異なっていて、前者は、せいぜい「含んでいる」程度の意味ですが、後者は「契約がOKになるかNGになるかの境目」という位の強い意味であり、同じ単語を充てるのは好ましくないことが分かります。
 気になった点として、段落0009の「一定数以上の署名がなければトランザクションが承認されないアドレス」(二重否定)を「一定数以上の署名があればトランザクションを承認するアドレス」(肯定)と訳した答案が散見されました。厳しいかもしれませんが、若干減点とさせていただきました。広い意味では同じではないか、という声もあるでしょう。ただ、原文に忠実か、と言われたらどうでしょうか。皆さんも、日常において「仕事が暇なら行く」と言ったり、「仕事が暇でなければ行かない」と言ったり、適宜使い分けていると思います。同じ意味ですが、ニュアンスは大分違うのではないでしょうか。あえて「二重否定」を使っている原文の著者の気持ちを考えてほしいと思います。同じ意味でも伝わり方が違うと思います。

(2)問2
 問2は、RFIDタグの通信に関する実施形態の説明に関する問題です。こちらも、文章は単純であり、比較的取り組みやすかったものと思います。ただ、一部において不明瞭な表現があり、その点の対応に苦慮された受験生も多かったものと存じます。
 「電波に乗せて」の部分の訳がやや曖昧になっている答案が多かったように思います。「電波に乗せて」というのは、何らかの「変調」を行って、信号波を搬送波に乗せる、という意味ですので、それに対応する何らかの動詞を充ててほしいところです。

(3)問3
 問3は、半導体デバイスの構造に関する請求項(クレーム)の問題です。請求項だけでなく、明細書及び図面も添付されているので、請求項の内容と明細書の内容が合致するように訳して戴くことが求められます。
 前文(「において」以前)は比較的訳しやすかったものと思います。後半の2フレーズの意味合いが、請求項のみだとはっきりしないので、明細書及び図面を見て、両者が合致するように訳していただきたいと思います。
 「前記ネック部分の表面に前記絶縁膜の島が複数個設けられており」というのは、この請求項の文言だけを見ると、一のネック部分に複数の絶縁膜の島があるのかとも思ってしまいますが、明細書及び図面を見ますと、そうではなく、少なくとも単数のネック部分に単数の絶縁膜の島があることが分かります。請求項も、当然にそのようなものが含まれるように訳さないといけません。一部の受講者は、この点、複数の絶縁膜の島が1つのネック部分に訳してしまっており、この点、減点の対象とならざるを得ません。このように、個数の対応関係を明確に英訳することは、実際の翻訳でもしばしば求められます。
 なお、構成要素の多くを複数形で訳しておられる方もおられましたが、クレームでは、「複数」と明示されているのでない限り、構成要素は単数形とした方が処理が容易になると思います。

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1級/機械工学

第38回 知的財産翻訳検定 1級/機械工学 講評


 今回は問題が易しくない割には善戦された方が多かったものの、実際に合格ラインに辿り着いた方は少なく、「あと一歩」の受験者が多い印象を受けました。


【問1】
 問1は、バラ物の石炭を陸上げするための発明です。「バラ物」をrose objectのように、機械翻訳をそのまま放置されたような答案もいくつか見られましたが、ほとんどの方は色々と工夫して訳語を当てていました。完全な間違いでないものは全て正解としました。
 今回のひとつの特徴は、ある程度以上の実力があると見られる方はほとんど減点がなかったのに対して、それに満たない実力の方は非常に多くの箇所で減点になったことです。特に多かったのが、"capacity of the bucket reduces"(正しくは"is reduced")や、"rust generates"(正しくは"rust is generated")のように、基礎的な英語の活用ミスでした。和文では能動態で書かれていても、単語によっては受動態でないと表現できないものもあるため、表現力を磨くことも翻訳の正確さの向上につながります。


【問2】
 この問も、英文に関する表現力が試されるものでした。というのは、系の中の水の流れに関するものですが、「水を流す」をそのまま伝える英語表現が存在しないのです。中には、"(to) flow water into the inlet"のような表現も見受けられましたが、残念ながら間違いです。単語"pour"は自動詞にも他動詞にもなりますが、"flow"は他動詞にはならず、自動詞として使わなければなりません。
 今回、主体を述べずに「水を流入させる」という原文に対応するには、
 ・主語を立てて使役で訳す
 ・受動態で訳す
 ・「水」を主体として能動態で訳す
 などが考えられます。いずれの手法でも問題なしとしましたが、手法が入り乱れたために意味が取りづらくなったものは減点としました。
 また、和文の「還流」を和英辞典で調べると"reflux"とありますが、これは水蒸気になった水分が結露して液体に戻ることをいうものです。中には、「逆流」という意味でも使われているようですが、いずれもこの発明とは関係ありませんので、"reflux"は誤訳です。実は、和文の「還流」も誤用なのですが、慣習上使われている表現で意図している内容が誤解されることもないため、それに適した表現を見つけることが必要です。


【問3】
 問3は、3Dプリンタ(付加製造装置)を対象とするクレーム翻訳です。本問題では、問題文中に「パリルートの米国出願用の翻訳文として英訳して下さい。」との注記を入れました。
(1)クレームの特徴
 本クレームは、付加製造装置を対象とし、図面から分かるように、発明の対象となる構成(構造)は比較的シンプルです。しかしながら、本発明は、制御内容に特徴があり、3次元空間における時間の経過も考慮し、その作用と製造物の観点も踏まえて発明を明確に特定する必要があります。本問は、用語の選定から単数複数の表現に至るまで、色々と難しい問題です。

(2)用語の選定
 特に、「前記粉末材料(P)を溶融する光ビーム(BM)を照射する」の「照射する」の訳語の選定には、いわゆるネイティブ感覚が必要です。「照射する」の訳語としてよく使用されるのは「irradiate」ですが、日本語と用法が異なります。「照射する」は、「光」と「照射対象」のいずれも目的語とする一方、「irradiate」は、専ら「照射対象」を目的語とします。
 これに対し、多くの受験生は、「irradiate」ではなく、「emit」や「radiate」を訳語として採用していました。一方、一部の受験生は、「粉末材料(P)」を目的語に変更して、「irradiate」を文法的には正しく使用していました。
 しかしながら、原文起草者は、光ビームの少なくとも一部を「粉末材料」に直接的に照射することなく、粉末材料以外、たとえば基材(B)に照射する構成が権利範囲外にならないように意図して記載したのかもしれません。権利範囲は、実施例の構成には限定されないからです。ところが、「粉末材料」を目的語に変更すると、この意図に沿わないことになります。
 特許請求の範囲の記載は、弁理士が発明者や知財部の担当者と合議して様々な視点から記載するので文として不自然に見えることがあります。しかしながら、何らかの意図があることがあるので、特許翻訳者には慎重な態度が求められます。

(3)単複について
 「幅方向にて隣接するビード」は、何に隣接するのか明記されていません。しかしながら、付加製造装置の原理を理解し、図1及び図2を見れば、「幅方向にて隣接する(複数の)ビード」であることが分かります。日本語には、単複の明記が無いので、英訳時には、文脈に応じて単複を決定する必要があります。
 したがいまして、本問では、ビードを複数形とすることで「幅方向にて隣接する(複数の)ビード」という「製造物」の構成を表現することになります。

(4)作用(制御内容)について
 本発明は、「幅方向にて隣接する複数のビード」が、「(複数のビードのうちの)先に形成したビード」と「(複数のビードのうちの)次に形成するビード」とを一定のラップ代(L)で形成するように製造条件を補正して製造されることを特徴としています。本構成は、「製造物」としての構成である「幅方向にて隣接する複数のビード」との有機的な関係を意識しつつ「先に形成したビード」及び「次に形成するビード」を表現する必要があります。
 特許発明の進歩性(日欧)や非自明性(米国)は、発明の構成要素間の有機的な関係に基づく顕著な効果に基づいて判断されるので、発明の構成要素間の関係は、常に意識して起草されます。したがいまして、特許翻訳者にもその意図に沿って翻訳することが求められます。
 

 いずれにしても、字面だけを訳すのでは誤訳を引き起こしてしまうのは当然のことで、特許翻訳者はその先の、クライエントは何を権利化しようとしているのか、何を守ろうとしているのか、に視点を置いて翻訳しなければなりません。機械翻訳やAIの台頭が叫ばれる中で、この点は当面の間、機械に取って代わられることはないでしょう。原文の書き手の意図を読み取るスキルがますます重要になる時代です。

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1級/化 学

第38回 知的財産翻訳検定 1級/化 学  講評


 本試験の受験者は英語力のある方が大半のように感じますが、特許出願の発明は最先端の専門的技術ですので、当該発明が属する「技術分野」に関する調査が必須です。そのような情報は書籍よりもネットの方が豊富ですし調査も容易ですので、本検定で評価される翻訳力は、ネット検索を素早く効率よく論理的に行う能力と努力にかなり影響されるでしょう。

【問1】
 例えば、問1は液状食品の濃縮によって旨味成分、香気成分が減少する問題を説明しています。英語のWiki(日本人が編集しているかもしれませんが) Umamiの項目に「旨味 or savoriness, is one of the five basic tastes.」とあり、tastes(複数)の1種である「旨味」はumamiと表現できること、「呈味」は「tastes」と表現可能であることがわかります。なお、flavorは「(独特の)味わい、風味、香料、香気」であって、「おいしさ」を共通して表す「旨味」とは違うジャンルと思われます。酒類総合研究所の「清酒の専門用語の標準的英語表現リストBrewing Terms | Japanese Sake Essentials」にはもろみについてFermentation mash containsrice and koji.と説明されていますが、「Mashは穀類やジャガイモを潰したりドロドロした状態にしたものや、ビールのモルトを糖化させるもろみを指すため、ふさわしくない、という意見がある一方、mashやfermentation mashを使用する関係者もいる。」との記載もあります。以上「焼酎」、「もろみ」、「旨味」の音訳を英語としても一般的表現として受け入れられると思われます。
 その他、問1の問題文は不充分な表現があるので、正確な意味を把握し、かつ英語の用法も気を付ける必要があります。「加水」にaddを使う場合、直接目的語waterだけでなく間接目的語も必要でしょう。「気化し」にvaporizeを使う解答では、自動詞なら主語がなく、他動詞なら目的語の無いものが大半でした。固体のcoffee beansはvaporizeされません。「5℃以上の室温以下」等の、「以上」「以下」「超え」「より下」等では境界値を含むのか含まないのか明確にしてください(belowは「〜より低い」なので含まれません)。

【問2】
 問2の段落0013では、「(1)に着目し、(2)の知見を得た」という文章の構造を理解して、適切に反映させた英文とする必要があります。「着目した」をうまく訳出できていない回答が多かった印象があります。「脱硫用触媒などとして使用される複合酸化物系触媒においては」の「おいては」を"in"と訳している例も多かった印象がありますが、安易に直訳せず、工夫していただきたかったところです。段落0014では、発明が「焼成前のゲルに、焼成後の水素化脱硫触媒を添加した後、焼成することを特徴とする水素化脱硫触媒の製造法を要旨とする」ことをうまく訳せていない回答が多く見られました。「要旨をする」を単に"wherein"で対応させるのは、少し物足りないように感じます。
 問2の「検討を重ねた結果、」からの(1)及び(2)は、全て一文で訳した方が誤訳の恐れが回避できるかもしれません。

【問3】
 問3は打上げ花火の煙火用着火線に関するもので、日本火薬工業会(JEIA)が関係するJIS K 4800:2000(Technical terms for explosives)を参照すると「煙火」はfireworks、「導火:親導、雷コード、ロングヒューズなどの総称」はfuse、「親導」はmain fuseとあります。「着火線」に関してネット検索するとfuse code、fuse wire、ignition wire等の用例がありますが、wireは英英辞書ではa piece of thin metal threadとmetalの意味が強く、かつネット検索するとfireworksに関してwireを使うのは英語系以外のサイトが多い印象でした。なお、本件の芯材は鉄線からなるので総称wireとしてもよいと思われます。「親コード」はmain fuse code、「雷コード」は「雷薬=添加すると爆発音を発する和剤(発音剤の一種)banger composition」を参考にして、banger fuse又はbanger codeが考えられます。安易に「親」「雷」を音訳することは、コードの用途が伝わらないので不適切でしょう。
 問3は実用新案(utility model)に関し、「考案」は実用新案権の保護対象を示す法律用語ですので、特許法の保護対象である発明(invention)とは違う言葉を使用する方が良いでしょう。用語「糸」に関しては、ネットから情報が見つけられます(thread:日本語の「糸」に最も近く、「何かを作るための材料となる糸」である。そのため、thread単体で使うことはあまり無く、撚り合わせて太い糸(string)として使うこともある。yarn:毛糸などの太い糸。何かを作るための材料ではあるが、太いために一般的な縫い針には通らない。string:複数の糸を撚り合わせて作った太い糸。stringは一般的な縫い針(needle)には通らないため縫い糸としては使われない。「紐(ひも)」「細いロープ」などという言葉の方が近い)。「打ち上げ花火」をlaunched fireworkとすると、「打ち上げられた花火」になってしまい、打ち上げる前の状態ではなくなってしまいます。本問は花火に関するので、「火薬」はgunpowder(武器用)よりもexplosivesやexplosive powderの方が適切です(減点対象ではありません)。技術内容に合致しており読み手がびっくりせず違和感を感じることのない、こなれた英訳を目指しましょう。

【問4】
 問4は、あまり馴染みがないかもしれませんが、「イオン液体」と呼ばれる「液体で存在する塩(えん)」に関する特許です。請求項1では、「G-C塩基対を不安定化させる、及び/又は、A-T塩基対(あるいはA-U塩基対)を安定化させる方法」であることが明確になるよう、"A method for destabilizing a G-C base pair and/or stabilizing an A-T base pair (or an A-U base pair)"と訳すのが良いと思われます。また、「2本鎖核酸分子に含まれる」のは「G-C塩基対」と「A-T塩基対(あるいはA-U塩基対)」の両方であることを理解して訳出する必要があります。「式(1)で示される」という言い回しは、化合物の特許では頻出の言葉ですので、定訳をおぼえていただきたいと思います。また、「式中」は、英文では単に"wherein"と訳すので問題ありません。英文クレームでは括弧は不要です。また、クレームは基本的に一文として英訳すべきであり、ピリオドは1つしか使わない、というのは特許翻訳では、翻訳者の方にもぜひ知っておいていただきたいところです。請求項2も「核酸分子の増幅を行う方法」であることが明確となるよう、"A method for amplifying a nucleic acid molecule"と訳出すべきと思われます。コロナ検査で一般にも知られるようになったPCR法に関する記載ですので、「核酸合成酵素」は"nucleic acid polymerase"とするのが技術的には正しいと言えます。ほとんどの方が"nucleic acid synthetase"などと訳されており(減点対象とはしていません)、"polymerase"とされたのは、お一人だけでした。また、「又は1種類以上のヌクレオチド」の「又は」は、技術的には「及び」である必要がありますが、"or"と"and"のどちらも正解としました。なお、"and"と訳す場合には、実務ではコメントを付しておくのが良いと思われます。請求項2は、請求項1ほど構造が明確でありませんが、問題文に「米国への出願を想定」することが明記されていますので、「プレアンブル-comprising-ステップ」の構造で訳すのが適切と言えます。その他、冠詞や単数複数の適否にも注意を払ってください。

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1級/バイオテクノロジー

第38回 知的財産翻訳検定 1級/バイオテクノロジー  講評


【問1】
 問1は、日本語の部分で少し読みにくい部分がありますが、一旦自分の中で、同じ意味でわかりやすい日本語に直してから訳すという基本的なことができるかどうか。それと、生物種の名称(ニホンジカ、ワサビ等)をどう訳すか、を考えてもらいたかったのが問題の趣旨です。学名で表しても良いのですが、背景技術の部分でもあり、日本語を直訳するのではなく、現地でどう呼ばれているかがもっとも重要な点だと思います。全体の文章としては、それほど難しくなかったと思います。
 
【問2】
 問2は、官能評価を英訳する問題でした。表現の仕方は様々なので、明らかな間違いがない限り、採点は比較的広く認める方向にしています。
 
【問3】
 問3は、分子細胞生物学が理解できているか確認することが趣旨でした。特許翻訳は語彙力や文法のみならず技術的理解が求められます。技術的に不正確な答案は厳しく採点せざるを得ません。
 
【問4】
 問4は、技術的理解のみならず、特許特有の表現や言い回しができているかを確認する問題でした。

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2級

第38回 知的財産翻訳検定 2級 講評


<全体講評>

問1についてはネット上に既訳があり、また問2についてはこの検定試験において過去に出題されたものと同一でした。戸惑われた方も少なくないと思われますが、既訳や過去問参考解答を参考にした答案はほとんどありませんでした。全体として優れた出来栄えの答案が多い印象でした。


<問1について>

1.1.0001の第2文が長くまわりくどいため、英訳作成が難しかったようです。
アンモニア改質→燃焼性の改善→低温安定燃焼の実現(高温燃焼の回避)→NOx発生の抑制 という一連のストーリー性がうまく訳出できている答案は意外と少なかった印象でした。

1.2.「炭化水素系燃料以外のものを用いることが検討されている」では、「検討されている」を“consider”とした回答が多く見られましたが、単に深く考える以上に、研究するという意味があるので、“study”などを使って訳すと更に良かったと思われます。

1.3.「失火」は課題文の場合、「過失により火災を起こす」という意味ではなく、「燃焼中に火が消えてしまう」というという意味です。“accidental fire”、“firing”などの誤訳がかなり多くありました。翻訳という作業では、安易にネット上にある訳語を無条件で使用せず、よく意味を考えて適切な訳語を選ぶ努力が必要です。“misfire/ flame off”などの訳が適切であると思われます。

1.4.「強く燃焼させる」の「強く」を“strong”と訳した答案が多く目につきましたが、“strong combustion”という表現はあまり一般的ではありません。“intensify”とか“enhance”などの訳語のほうが適切と思われます。


<問2について>

2.1 問2の課題文は、過去にも本試験で出題されたものでした。過去問を勉強なさった方には取り組みやすかったと思われます。この課題文には「面」という言葉が繰り返し出てきます。「表面」を単に“surface”とした答案が複数見られましたが、課題文では「表面」は裏面と対比させて用いられているので、例えば“front /rear”という対比表現が必要です。

2.2.「配線部材の表面は、その反対側の面を指す」で「反対側の面」の“opposite”を使った表現がうまくできていない答案が複数見られました。基本的な表現はしっかり使えるように する必要があります。

2.3.「PPP〜QQQ」の〜は英文では使われません。「以上以下未満超」の表現をしっかり身に付けると良いです。

2.4.「端子21a,22aを有する箇所にて第1方向と平行な線で切断した断面を拡大した図である」はよく出てくる基本的な表現ですので、参考訳などを研究して確実に覚えると良いです。

2.5.「任意の」も定訳語“arbitrary”があります。


<問3について>

3.1.キーワードである「ロボット配達システム」は「ロボットを配達するシステム」ではなく「配達をするロボットシステム」です。語順通りに“robot delivery system”訳すと誤解を受けます。「ロボットによって支援されるデリバリーシステム」と意味を解釈して、“robot-aided delivery system”、“robotic delivery system”とした答案が見られたが大変よいと思われます。

3.2. 課題文には「米国出願用に」との制限がありますので、“robot”を“comprise”の目的語としていわゆるワンパート形式で翻訳することが望ましいと思われますが、“robot”をpreambleに含めた訳も正答としました。

3.3. 請求項1末尾の「前記目的地設定部は、前記目的地を所定時間毎に更新し、更新された前記目的地に向けて前記自律移動型ロボットを移動させる」の訳はワンクッションが必要です。実際に目的地設定部がロボットを直接動かすわけではないので、参考訳のように“causes”などの動詞をうまく使うとか、whereby節(whereby the robot is moved…)を使うなどの工夫が必要です。

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3級

第38回 知的財産翻訳検定 3級 講評


 解答例と解説をご覧ください。


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<問い合わせ先>
特定非営利活動法人(NPO)日本知的財産翻訳協会 事務局
〒163-0219 東京都新宿区西新宿2-6-1 新宿住友ビル19階
TEL 03-5909-1188
●e-mail : kentei(at)nipta.org ※
※迷惑メール防止のため@を(at)と表示しております。